理化学研究所(理研)は、文部科学省が推進する「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」プロジェクト(次世代スーパーコンピュータプロジェクト)の一環として開発を進めている次世代スーパーコンピュータの新システムを、スカラ型単独で構成することを決定したことを明らかにした。
理研は、次世代スパコンの開発主体として2006年9月から概念設計を開始し、2007年4月にスカラ部とベクトル部からなる複合システム構成案を取りまとめ、開発を行ってきたが、ベクトル部の開発を担当しえちたNECが2009年5月13日に詳細設計以降の試作・製造段階への不参加を表明したことにより、複合システムの実現が困難な状況となっていた。
一方、同プロジェクトを推進している文部科学省では、プロジェクトの中間評価作業部会において、システム構成について技術的な観点から評価を実施、この結果も踏まえ、理研は、次世代スパコンのシステム構成について検討を行い、文部科学省に報告、評価を経て、新たなシステム構成を決定したという。
新システムは、スカラ型スーパーコンピュータとなり、分散メモリ型並列計算機システムとなり、開発は、理研と富士通が共同で実施し、性能目標10PFLOPS達成と2012年完成など、当初目標の達成を目指すとしていう。
CPUには、富士通が開発した45nmプロセス採用の「SPARC64 VIIIfx」(8コア、128GFLOPS)を採用。エラーリカバリ機能を搭載し、運用性向上が可能となっている。また、計算ノード間を接続するネットワークは、直接結合網のネットワークを採用。今回開発されたネットワークは、多次元メッシュ/トーラスという結合方式を採用し、自由度・拡張性と耐故障性・運用性を両立している。加えて、同ネットワークは、隣接したノード間で広帯域の通信路を持ち、さらに、プログラミング時の論理的なネットワーク構成イメージとして、3次元までのトーラスネットワークを構成することができる。これにより、ユーザーは、科学技術計算によく現れる隣同士のデータを使うアプリケーションを、効率的に実行することが可能となるという。
「SPARC64 VIIIfx」のダイ写真 |
直接結合網、3次元トーラスネットワークの概念図 |
さらに、エラーリカバリ機能を有するCPUやネットワークの性能を十分発揮するシステムソフトウェア群も併せて開発を進めており、特に、OSにはLinuxを採用するとともに、標準規格に準拠した言語(コンパイラ)や、標準的な通信ライブラリを装備している。
次世代スパコンは、試作・評価を経て、2010年度から据付を開始、2010年度末に一部稼働、2012年に完成、共用を開始する予定。
なお、新たな次世代スパコンの構想では、スカラ型単独のスパコンとなるため、現在、ベクトル型スパコンを利用しているアプリケーションを、次世代スパコンにおいて効率的に実行可能なアプリケーションにするために、書き換えなどの調整が必要となる。現在、文部科学省において登録施設利用促進機関が行う利用者支援業務のあり方について検討が進められているが、理研では、こうした関係機関などとも協力し、ベクトル型のユーザーに対して充実した支援を提供していくとしている。