スウェーデンは他の北欧諸国と共に、ブロードバンドやインターネットの高い普及率とともにICTの戦略的利用で知られる。その首都ストックホルム市は、北欧のベニスともいわれる美しい街並みで知られるが、その地下には光ファイバが張り巡らされている。
ストックホルム市は今年、シンクタンクIntelligent Community Forum(ICF)により、最もインテリジェントな都市に選ばれている。ICFはブロードバンドをはじめとしたICTの活用を評価、中でも同市がStokabを設立し、光ファイバの敷設と回線貸し出し(リース)を行うことで効率よく光ファイバの普及を進めている点に言及している。
そのStokabの取締役会長、Sebastian Cederschiold氏が6月23日、スウェーデンEricssonの本社で開催された「Ericsson Business Innovation Forum」にて、自社の取り組みを説明した。光ファイバ時代をにらんだストックホルム市の戦略的狙いを伺うことができる。
ストックホルム市は1994年、光ファイバ時代に向け、光ファイバの敷設とリースを事業とする企業としてStokabを立ち上げた。ストックホルム市と郡が100%の株式を保有する公社となる。背景には、旧国営通信会社のTeliaに依存することなく、無駄なく光ファイバを敷設し、公正な競争がある市場を創出するため。これなら、自社で光ファイバを敷設できない新規参入者もサービスを提供できるし、最終的に市民が支払う価格を抑えることにつながる。
ストックホルム市の面積は、約6,500平方キロメートル。人口は約180万人。Stokabはすでに、市の中心地を中心に5,000kmの光ファイバと120万kmのファイバを敷設、市の95%の道路の地下に光ファイバが敷設されている。ストックホルムのブロードバンドカバー率は、固定、モバイルともに100%に達しており、市にオフィスを構える企業の63.8%が光ファイバに接続しているという。
Stokabは現在、段階的に光ファイバを家庭に接続しており、今年は、3年計画の第1フェイズの最後の年を迎える。このフェイズでは、市が所有する約9万5,000世帯に光ファイバを引き込む計画だ。次のステップでは2012年までに残りの40万世帯に拡大する。
固定側と歩調を合わせるように、モバイル側でも最新技術であるLTE(3.9G)も2010年に市でサービス開始が予定されている。「固定、モバイルを合わせ、世界で最もブロードバンドが普及した都市を目指す」とCederschiold氏は意気込む。
光ファイバ先進国の韓国をはじめ、多くの国が国レベルで光ファイバ戦略や目標値を設定しているが、Cederschiold氏によると、スウェーデンとしては具体的な戦略はないという。ストックホルム市の計画では、4年で15億スウェーデンクローナ(約176億円)を投資し、速度は1,000Mbpsを目指す。なお、同じく1,000Mbpsを目指す韓国は、5年で75億スウェーデンクローナ(約884億円)とのことだ。
このようにストックホルム市が光ファイバを積極的に推進する理由は、ブロードバンドがもたらす公共サービスの充実だ。ストックホルムは環境都市を目指しているが、ネットワーク化により移動や紙への依存が軽減する。「eシティはグリーンシティ」とCederschiold氏。このほか、投票など各種行政手続きのオンライン化、学校の選択や比較、障害者向けの交通案内、高齢者向けの電子キーやヘルスケアなどの公共サービスを今後予定しており、「企業とのコラボレーションを通じて、想像しないような新しいサービスが生まれると期待している」とCederschiold氏はいう。
公社が光ファイバを敷設し、リースするという戦略はこれまでのところ成功している。Cederschiold氏によると、光ファイバの利用率は当初の10 - 15%から、現在は30%近くに達しており、すでに黒字転換している。現在、90社のオペレータ、500社の顧客を持つ。オペレータの規模は、地域企業から国際企業までさまざまで、同じ土俵で勝負しているという。
成功の理由について、Cederschiold氏は、オペレータからの信頼と市民からの需要を挙げる。ダークファイバの提供に徹し、オペレータの規模を問わず同じ条件でリースすることでオペレータの信頼を得られた。コラボレーションにより新サービス開発にもつながったという。需要については、エリアが拡大するごとに世帯からの問い合わせや要求が増えているという。
また、政治的コンセンサスも大きな後押しとなっている。ストックホルム市では、自分たちのコアバリューを進化/革新、グリーンとしており、光ファイバはこのコアバリューに貢献する。光ファイバ普及は市の優先課題という点で一致したことが、スピーディで無駄のない光ファイバ計画を生んだといえそうだ。「ストックホルム市のコアバリューを実現のために必要なインフラを敷くことが重要。インフラが(市が発展するにあたって)障害になってはならない」とCederschiold氏。
今後の課題としては、計画されている敷設/リース作業のほか、新しいサービスの開発も進めていく意向とのことだ。