FPGAベンダの米Alteraは6月29日(現地時間)、同社FPGA「Cyclone III」にセキュリティ機能を強化したシリーズ「Cyclone III LS」を発表、出荷を開始したことを発表した。

Alteraの新FPGA「Cyclone III LS」シリーズのパッケージイメージ

日本アルテラ マーケティング部 ディレクタの堀内伸郎氏

同製品は一般的なCyclone IIIの後ろに"LS"が付くモデルとなるが、この名称について、同社日本法人である日本アルテラ マーケティング部 ディレクタの堀内伸郎氏は、「"L"はLow Power、"S"はSecure、それぞれの頭文字」と語る。

LSで強化された機能

"L"側の性能としては、まずプロセスとして従来のTSMCの65nm LPから60nm LPへと変更されている。また、同社の設計ソフトウェアである「Quartus II」による電力を考慮した設計フローを採用することで、LSシリーズでロジックエレメント(LE)が最大の200Kの製品においても、スタティック電力が0.25W未満に抑えることに成功しており、これについて堀内氏は、「(ハイエンドFPGAである)Stratixと比べるとスタティック電力は1/5~1/6程度に抑えられている」と語る。

一方の"S"側の性能としては、大きく分けて3つの機能が搭載されている。1つ目は「アンチ・タンパー(不正操作防止)」で、コンフィグデータを格納している外部フラッシュとのデータのやり取りをする際に、256ビットのAESによる暗号化を実行するというもので、これにより回路の設計データ保護が可能となる。具体的には、FPGA内に揮発性のメモリを用意、そこに暗号鍵を書き込む領域とし、暗号化された回路データの復号を行う。揮発性メモリを採用した点に関しては、「暗号鍵のデータを、有事の際のメモリ消去が容易なため」(同)とする。

2つ目は、「デザイン・セキュリティ(設計データの保護)で、JTAGポートに対し、不正アクセスを防ぐための機能が搭載されたほか、ソフトエラーや不正な手順によるコンフィギュレーションの変化をモニタする「CRC」、外部クロックが停止してもシステム監視用のクロック源として活用できる「オンチップ・オシレータ」、不正操作を検知した際に、回路データをすべてクリアしてしまう「ゼロイゼーション」といった機能が搭載されている。

アンチ・タンパーとデザイン・セキュリティによる設計資産保護のイメージ図

3つ目は「デザイン・セパレーション機能」の搭載。これは、Quartus IIの機能拡張により実現したもので、これまではFPGAへのロジックの埋め込みは3段階の厳しさを採用していたものを拡張し、各ロジックをブロック化することで、より厳しい埋め込みルールを適用、配置したロジック周辺にもほかのロジックや配線が侵入してはいけないスペース(ホワイトスペース)を設けることで、きっちりとした配置を実現する。

これだけ聞くと、何がなんだか良く分からないが、これが何を意味するか簡単に述べると、例えば欧州の機能安全に対するガイドラインでは「TUV Rheinland」の第3者機関などでの承認が大きな意味を持つ。FPGAは自由に回路を組めるソフトな点が特徴だが、逆に言えば回路が変わるごとに認証を受ける必要が出てくる。言ってしまえば、一部を変えるごとにすべての部分に対する認証を受ける必要が出てくるわけだ。これだと、時間がかかり、ビジネスチャンスを逃したりといったことも生じてくる。デザイン・セパレーション機能では、各ロジックをブロック化、配線などの変更も起きないため、その部分に対する変更命令がでない限り変更は生じない。つまり、回路の一部だけ変更した場合は、その部分だけの認証を受ければ良いということとなる。

また、きっちりと配置することで生まれる空きスペースを活用することで、同様の回路をチップ上に作成し、冗長回路として用いることが可能となる。つまり、これまで2つのCyclone IIIを必要としていた冗長構成を1つのCyclone III LSだけで実現できるようになるわけだ。

デザイン・セパレーション機能のイメージ図(2つの同じ回路を配置することで1チップで冗長性を持たせることが可能となる)

海外では軍事用、日本では産業機器用

Cyclone III LSはその低消費電力性と冗長性、機密性の高さから海外では、例えばソフトウェア無線(SDR)といった軍用での採用が決定している。一方、軍事産業が皆無の日本はというと、堀内氏は「FAのみならず産業機器全体に向けた提案を行っていきたい」と語る。例としては、進化する産業用イーサネットへの対応、冗長性に対するオプション、知財保護などへの適用が挙げられるという。

なお、今回提供されるCyclone III LSシリーズはLE数が70K/100K/150K/200Kの4種類、パッケージはLE数にもよるが、19mm×19mm、23mm×23mm、29mm×29mmの3種類が用意されている。またLE数以上にRAMの容量やマルチプライヤの数なども増加(RAM容量はCyclone III比で最大約2倍、マルチプライヤも同1.8倍程度)されており、信号処理や通信処理にもより対応しやすくなっている。

「Cyclone III LS」のラインナップと仕様