METI(経済産業省)とNASA(米国航空宇宙局)は6月29日、共同で人工衛星搭載センサ「ASTER」を用いて作成した全球3次元地形データ(GDEM: Global Digital Elevation Model)の配布を開始した。ASTERは人工衛星Terraに搭載された地球観測センサであり、1999年12月に打ち上げられて以来、地表面の状況や温度の観測および3次元地形データ(DEM)の作成を続けている。
ASTER GDEMはこのASTERによる地形データを元に整備された全球3次元地形データであり、「世界中の何処でも、どのような範囲でも、誰でも簡単に利用できる、高精度のDEM」として整備された。ASTER GDEMを利用することによって鳥瞰図やフライトムービーなどを簡単に作成することができるようになり、視覚的に優れた地図表現が可能になるとのこと。一方で災害や水、エネルギー、環境などの分野における活用も期待されており、専門機関における高度な解析のプラットフォームとして利用することが可能だという。
ASTER GDEM(ASTER GDEMのWebサイトより) |
ASTER GDEMの特徴はその精度の高さとカバー範囲の広さ、欠損部分の少なさにある。ASTERのカバーする全陸域のDEMを、同一地域に重なる部分も含めて全て利用しているためである。これまで観測されたデータは150万シーンを超えており、それを元に1,264,118シーン分のDEMを作成、雲のあるピクセルを除外した上で全シーンDEMを重合し平均的な標高値を算出しているとのこと。この作業は全て自動化して行われた。
ASTER GDEMを配布しているERSDAC(財団法人 資源・環境観測解析センター)のサイトでは他のGlobal DEMとの比較として次のような表が掲載されている。
ASTER GDEM | SRTM3 | "GTOPO30" | 数値地図50mメッシュ標高データ | |
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データソース | ASTER | スペースシャトル レーダ | 世界中のDEMデータ所有機関から入手 | 1:25,000地形図 |
作成・配布機関 | METI/NASA | NASA/USGS | USGS(米国地質調査所) | 国土地理院 |
配布開始年 | 2009年~/td> | 2003年~ | 1996年~ | 1997年 |
データ取得期間 | 2000年~継続中 | 11日間(2000年) | ||
DEM分解能 | 30m | 90m | 1000m | 50m |
DEM高さ精度(標準偏差) | ±7m | ±10m | ±30m | ±7m |
DEMカバー域 | 北緯83度~南緯83度 | 北緯60度~南緯56度 | グローバル(全球) | 日本のみ |
DEMデータ欠損域 | 常に雲に覆われてASTERデータが撮れない地域 | 地形急峻域(レーダの特性による) | なし | なし |
この表によるとASTER GDEMのカバー域は北緯83度から南緯83度でほぼ全球の陸域であり、高緯度地域や急峻山岳地域もカバーされている。高さ精度/分解能もともに他のDEMを凌ぐか同等の精度となっている。ただし、今回公開されたASTER GDEMバージョン1には現時点で除去困難な残留異常値などがわずかに存在するとのことで、METIおよびNASAは各ユーザがこのデータ属性を理解してから利用するよう呼びかけている。
ASTER GDEMはERSDACおよびLP DAACのサイトにてユーザ登録の上でダウンロードすることができる。GDEMデータの配付対象は「GEOSSで定義された社会公益性の高い9分野(災害・健康・エネルギー・気候・天候・エコシステム・農業・生物多様性)に関わる研究や業務などを行うユーザ(個人あるいは組織)」となっており、この目的に限り無償で利用できる。ただし、商用目的での利用の場合は個別に使用目的等を連絡する必要がある。
ASTER GDEMのデータはカシミール3Dなどのソフトウェアによって処理することができる。ERSDACのサイトでは、近日中にASTER GDEMのデータをカシミール3Dで読み込む方法などを掲載する予定とのことだ。