デジタルハリウッド大学大学院は、映画『おくりびと』のエグゼクティブプロデューサー・間瀬泰宏を迎え、「エグゼクティブプロデューサーが語る 映画『おくりびと』が出来るまで」と題した講演を行った。
間瀬プロデューサーは1982年にTBSテレビに入社後、『筑紫哲也NEWS23』などの報道番組に17年間携わり、その後、映画事業部に異動。これまでに『嫌われ松子の一生』(2006)や、『チーム・バチスタの栄光』(2008)、『ジェネラル・ルージュの凱旋』(2009)などのプロデュースを手掛け、現在は、TBSテレビの映画事業担当部長を務めている。
映画『おくりびと』は、些細なきっかけから遺体を棺に納める納棺師になった主人公・小林大悟(本木雅弘)が、その仕事を通じ、成長していく様を描いた作品。これまで、CGを多く使った作品から実写映像のみで人間ドラマを描いた作品など、様々なタイプの作品をプロデュースしてきた間瀬プロデューサーは、この作品をCGを使わないヒューマンドラマにする予定だったという。
「今回の作品は、まったくCGを使わず人間ドラマを描いてみようという企画でした。しかし実際に完成した作品では、かなりのシーンでCGを使用しています。特に遺体の映像化はとても難しく、どうしても頚動脈や瞼が動いてしまいます。そこはCGで埋めるしかありませんでした。この映画で遺体が動いていたら興醒めしてしまいますから」
このように映画『おくりびと』において、"遺体"は重要な役割を担うため、多くのCG加工が施されたという。また他にもCGを用いた重要なシーンがあると間瀬プロデューサーは語った。
「物を食べるということは人間の欲望のなかで一番大きいことで、食べることが充実しないといい仕事もできません。私は、すべてのことは食べることから始まると考えています。そういった考えから、"食べる"というシーンは必ず映画の中で描くのですが、映画に出てくる食べ物をおいしそうに見せるのは、とても難しいことです。この映画では、ふぐの白子が出てくるシーンがあるのですが、このシーンは映画のなかで重要なシーンだったので、本当においしそうに見せる必要があった。そこで、白子の湯気にもCGを用いています」
間瀬プロデューサーは、旬な題材や出演者を使って映画を制作することが商業映画のセオリーであると同講義で語った。しかし映画『おくりびと』は、そのセオリーに当てはまらない。そこで、従来とはまったく違った戦略で売り出していったという。具体的には、通常、商業映画は完成から公開するまで数カ月しかあけないところを、同作品ではあえて配給会社の松竹が運営する大型シネマコンプレックス「新宿ピカデリー」が完成するまで1年もの間公開を先延ばしにした。このようなことが出来た背景には、旬な題材や役者を起用していない点が挙げられるという。そしてその期間に、全国約10万人に映画を無料で鑑賞してもらう大々的な試写会を開催した。これは映画『おくりびと』が、1度観れば絶対に人に勧めたくなる作品だという考えから行ったものだった。さらに、映像においては、撮影終了から公開までの時間を費やし、CGを用いて凝りに凝った作品に仕上げていったとのこと。
題材、キャスト、上映タイミングなど、この映画は様々な面において、通常の商業映画では考えられない作品だった映画『おくりびと』。しかしその商業映画のセオリーにあえて背き、逆手に取ることで、アカデミー賞外国語映画賞受賞という大いなる成功を掴むことができたのだろう。今後、この作品の成功により、日本映画は従来にも増して世界で注目される存在になるだろう。この講義を聴講したデジタルハリウッド大学大学院の生徒のなかから、将来アカデミー賞に輝くような作品をプロデュースできる人材が出ることを期待したい。
映画『おくりびと』は新宿ピカデリーほかロングラン上映中。