SAPの日本法人であるSAPジャパンや、Intelの日本法人であるインテルらが、Intelのサーバ向けプロセッサ「Xeon 5500番台」を活用してディザスタリカバリ(DR)に対する柔軟なシステム環境の構築に向けた取り組みを進めている。

DRソリューションとしては、通常のシステム(運用サイト)と同様のハードウェア環境(DRサイト)を遠隔地に用意し、レプリケーション(複製)によりデータの同期を図る方法が一般的だが、運用サイトのシステムが巨大になればなるほど、こうしたソリューションのコストは高くなることが多々あり、一方、低価格なソリューションを採用した場合、運用や災害時の切り替えが複雑であるなどの課題があった。

SAPジャパンは、2008年7月に日本市場向けのさまざまなソリューションの共同研究を行う施設として、「SAP Co-Innovation Lab Tokyo」を開設。2008年9月、SAPジャパン、インテル、ヴイエムウェア、ネットアップの4社により、Phase Iとして仮想化テクノロジーを用いたDRソリューションの実証実験に成功。以降、Phase IIとして、先述の4社にシスコシステムズ、ザカティーコンサルティングの2社を加えて、実証実験が行われてきた。

ディザスタリカバリ検証のPhase IIのポイント

Phase IIの実証実験では、擬似的な環境で運用サイトのトランザクションがDRサイトに正しく反映されることを検証したPhase Iからさらに発展させ、より現実的なビジネス用途を考慮。運用サイトでは、複数のシステムが稼働していることを想定して、VMware ESXが稼働する2台のIAサーバを配置、DRサイトは投資を最小化するために1台のIAサーバに仮想マシンを集約してN対1のサーバ構成を構成した環境を構築。

Phase IIで使用した検証環境の構成

運用サイトのサーバには、Intel Xeon 5500番台プロセッサ搭載サーバと、旧世代の同Xeon 5300番台搭載サーバを採用。DRサイト側には同Xeon 5500番台搭載サーバを1台設置し、異なるプラットフォームの混在環境でデータの同期と業務の継続が可能となることを検証した。

ネットアップのストレージ技術を使って、運用サイトとDRサイトの同期を実行。サーバとストレージ間は、通信プロトコル「FCoE(Fibre Channel over Ethernet)」により、FC(ファイバチャネル)とEthernetを統合することで、シンプルなネットワーク環境を構築した。

また、CiscoのWAN高速化装置「WAE-7371」によるWAN高速化ソリューション「WAAS(Wide Area Application Services)」を活用することでパケットを圧縮、データ転送のパフォーマンスを向上させている。

なお、運用サイトとDRサイトは、それぞれ東京と大阪のラボに設置。拠点間はコストメリットを出せるインターネットVPNで接続した。

検証は、導入前の運用サイトで2台の物理サーバ、DRサイトで1台の物理サーバがそれぞれ稼働していることを想定。仮想化テクノロジーを利用した新たなDRサイトを構築するために、Xeon搭載サーバを、運用サイトに1台、DRサイトに1台それぞれ追加するシナリオとし、異なるサーバ環境下でフレキシブルなDRサイトを構築する実験を実施した。

ネットワーク環境

結果は、運用サイトとリカバリサイトでサーバの台数など環境が異なる状況下においても、迅速かつ正常にフェイルオーバーが実行できることが確認できたという。復旧までの時間(ROE)は約1時間で、目標とした2時間を上回った。今回の検証では、運用サイトに2台、リカバリサイトに1台の物理サーバという、最低限の仮想マシン環境でテストを実行したが、自動化のメリットはサーバの管理台数が増えるほど大きくなるため、仮想環境におけるディザスタリカバリを自動化する「VMware vCenter Site Recovery Manager(SRM)」は、災害からの早急な復旧が求められる環境においても最適なソリューションといえることとなったとする。

VMware vCenter Site Recovery Manager(SRM)の概念

今後の検討課題としては、DRサイトの日常業務における有効活用が挙げられるという。特に、中堅・中小企業においては、投資対効果の観点から厳しい面があり、SAP Co-Innovation Lab Tokyoにおいて、具体的なシナリオを検討していくとしている。同研究所では、今後、多くの企業から寄せられるニーズについても、継続して実証実験を行っていくとしている。

ディザスタリカバリの検証 Phase IIにおける成果

また、今回の実証実験は、その範囲がDRサイトのフェイルオーバーまでで、運用サイトへのフェイルバックは行われていなかったことから、今後は海外サイトを含めたフェイルバックも視野に入れながら、より現実的なビジネス環境に即した検証を進める予定としている。

なお、今回のインテルらの取り組みに関しては、同社のWebサイトの日本語PDF資料インデックスに掲載されているので、ディザスタリカバリに対して気になる人はそちらも参照すると良いだろう。