セイコーエプソンは6月18日、都内で記者説明会を開催し、同社が5月29日に発表し、米国にて6月2日より開催されたディスプレイ関連の国際学会「SID(The Society For Information Display)2009」にて発表を行った有機EL向けインクジェット方式の均一成膜技術の詳細を明らかにした。

有機ELは、PDPのように自発光なため、LCDのようなバックライトが不要となるほか、高コントラスト、広視野角、高速応答、低消費電力などの特長を持つFPDで、次世代パネルとして期待され、すでにSamsung Mobile Display(2008年9月にSamsung SDIの中小型ディスプレイ部門が独立)が、携帯電話のメインパネル向け有機ELや、ソニーの11型有機ELテレビなどとして実用化が進んでいた。

LCD、OLED(有機EL)、PDPそれぞれの構造(左)と、それぞれの性能比較(右)

しかし、有機ELパネルの大型化に関しては、現状のメタルマスクを用いた蒸着法では色ムラが発生する、有機材料の寿命が足りないなどの課題があり、研究開発レベルでは出てくるものの、商用品として市場に出るには問題が残されていた。

今回、エプソンが開発したのは、同社がプリンタなどにも技術を応用しているマイクロピエゾテクノロジーを用いたもので、有機材料をインク化し、インクジェットヘッド(積層ピエゾヘッド)から吐出するのは従来と変わらないが、ピエゾへの駆動波形を変えることでサイズの違うドットを高い精度で打ち分けるMSDT(マルチサイズ・ドットテクノトジー)の改良により、有機ELパネル上のスジムラを解消するというもの。

有機材料の分類とそれに基づいた有機EL構造

セイコーエプソン 技術開発本部 コア技術開発センター 部長の宮下悟氏

具体的には「ヘッドの改良はもちろんだが、アルゴリズムを変更することで、滴下するインクの波形を大ドット、中ドット、小ドットの3つの内から、画素ごとにインクの重量バラつきに応じた波形の組み合わせを行うことで、充填量を揃え、スジムラを解消した」(セイコーエプソン 技術開発本部 コア技術開発センター 部長 宮下悟氏)という。これにより、インク重量誤差は従来の6%程度から、補正後は0.4%へと低減されたという。

アルゴリズムの変更などにより、画素ごとのバラつきをトータルで均一化できるようになった(試作の14型では10pl/画素の滴下量で1万滴以上滴下する必要があったが、±0.4%の誤差範囲に収められたという)

また、ヘッドのスキャンを従来は1画素あたり4パス(改行方向分解能720dpi)で行っていたものを、1パス化することで、塗布速度を4倍に向上することも可能にした。

ヘッドスキャン方式の変更により滴下速度を従来比4倍向上

SIDでの発表では、14型の試作パネルを展示。今回の説明会でも同様のモデルを展示したが、膜構成はホール注入層/インターレイヤ/RGBの3層5膜のすべてをインクジェット方式で成膜したという。表示サイズは対角13.6型で、フルHDの37型を意識して作製しており、「インクジェットはリニアにパネルサイズの変更に対応でき、10G(3400mm×2950mm)にも対応させようと思えばできる」(同)という。

今回の技術を採用した14型有機ELディスプレイの試作機(1年半前に選定した材料とのことだが、色合いとしては十分見れるものと思われる)

今回の試作パネルはあくまで均一成の実証を行うために作られたもので、およそ1年半ほど昔に決めた材料を用いて作られており、色合いなどについては考慮されておらず、消費電力についても「同型の液晶テレビと同じ程度」(同)とのこと。ただし、実際に製品化される際にはチューニングにより、低消費電力化が図られる予定という。

このほか、パネル大型化に関しては、有機材料の長寿命化が必須となっている。特にインクジェット方式に対応する青の寿命が短く、「最大の課題」(同)としながらも、「青の寿命は年に3倍くらい向上しているため、2010年ころには目標の1万時間に到達することを見込んでいる」(同)とし、材料メーカーからの提案などを期待するとしている。

各種インク材料の開発の状況

なお、同社では2010年に大型有機ELパネルの製造にめどをつけ、12年から生産を開始できれば、市場の拡大が一気に加速すると見込んでおり、そのための製造装置、部材、パネル、セットメーカー各社などと多角的な方向での連携などを模索していきたいとしている。

2013年にはテレビでの本格普及が始まり、2015年には有機ELにおける最大市場はテレビになると同社では見込んでいる