富士通研究所は6月12日、GaN HEMTを用いてX帯(8GHzから12GHzの周波数帯の電波)において、効率53%と出力101Wを実現した増幅器を開発したことを発表した。これにより、従来のGaAs HEMTによるX帯向け増幅器に比べ、電波到達距離は約2倍伸びることが期待される。
また、同社では同技術をC帯(4GHzから8GHzの周波数帯の電波)にも適用、出力として343Wを記録した。これにより、GaAs HEMT比で、電波の到達距離は約2.6倍伸びることが期待されるという。
効率は、電力利得を持つ増幅器により投入直流電力が高周波電力に変換される際の増加量の割合を表すものであり、高効率の実現のためには高い電力利得、つまり、トランジスタチップの性能の向上が求められていた。加えて、高出力増幅器用のトランジスタチップは、複数のトランジスタを並列に接続した構造を持つため、信号の入力および出力箇所が1つの場合、チップ中央を通る信号と端を通る信号間で、配線長の違いにより位相差が生じ、結果として、高周波の場合、各々のトランジスタが同位相で動作しなくなり、各トランジスタの性能を活かせなくなるという課題が、これまでのGaN HEMTをX帯出力増幅器に適用する際に存在していた。
今回、同社では、2つのトランジスタチップで構成された、高効率・高出力のX帯およびC帯のGaN HEMT増幅器の開発に成功した。具体的には、高周波数対応に向け、トランジスタのゲート長を0.25μmに微細化。加えて、ゲート・ドレイン間隔の最適化も行い、高周波特性と耐圧を両立した高出力トランジスタを開発した。これにより、X帯で従来と比べ約10倍の電力利得を得るとともに、抵抗成分を減らし、効率の向上に成功した。
また、2008年に開発したC帯のGaN HEMT増幅器の入力信号の位相差を発生させない多分割の入出力線路構造の配線構成の最適化を実施、X帯に適用した。これにより、X帯においても、チップ内の各トランジスタ間における入出力信号の位相差が解消され、高い出力電力密度を有するGaN HEMTが均一に動作し、効率的な出力の合成が可能になった。さらに、2チップ間の熱干渉を抑制することで、チップ温度上昇による出力低下も抑制。これにより、高周波数においてもGaN HEMTの高出力特性を引き出しつつ、高効率を実現することが可能となった。
これらの技術を適用したGaN HEMTは、X帯において、効率53%および出力101Wが得られた。10GHz帯における同等出力で従来の報告例より20%程度高く、省電力化に貢献しることが考えられる。また101Wの出力は従来の同社のGaAs HEMT増幅器に対して約4倍の出力に相当し、これにより電波の到達距離が2倍に伸びることが期待されるという。
さらに、C帯に同技術を適用し、出力343Wの出力を達成。同特性は、同社が2008年に発表した320Wの出力を上回る性能で、既存の同社GaAs HEMT増幅器に対して約7倍の出力に相当することにより、電波の到達距離は約2.6倍伸びることが期待されるという。
同増幅器の実用化により、従来高出力用途で用いられていた進行波管増幅器の置き換えが進むと期待され、レーダ、衛星通信や次世代携帯電話基地局のワイヤレス通信機器などに用いる送信システムの小型・軽量化や省電力化、長寿命化が可能になることから、同社では幅広い適用を目指していくとしている。