富士通と富士通研究所は6月11日、インパルス無線方式に基づく70~100GHz帯ミリ波通信装置を開発し、10Gbpsを超す無線通信に成功したことを明らかにした。

インパルス無線方式の通信装置では、RFの送信部が短パルス発生器、フィルタ、送信増幅器の3部品、RFの受信部が低雑音増幅器と検波器、後置増幅器の3部品でそれぞれ構成が可能。しかし、インパルス無線方式ではミリ波パルス信号の送受信を行なうため、従来の通信方式にはない大きな課題が2つあった。1つ目は、RF受信部のアンテナから増幅器までの配線部で発生する受信信号波形の歪みを低減し、微弱なミリ波信号を忠実に増幅することが必要ということ。もう1つは、送信機から送信したミリ波パルス信号は時間的にゆらぎやすい性質があるため、受信機内での"0"、"1"判定のタイミングとのズレが生じ、受信誤りを引き起こす。そのため、この時間的ゆらぎを低減することが必要となっていた。

インパルス無線方式ミリ波通信装置のイメージ図

これらの課題を解決するため2社は、富士通研究所が開発したInP HEMT技術を用いて、広帯域高感度受信技術(送信機)および高安定短パルス発生技術(受信機)を開発した。

広帯域高感度受信技術は、従来のGaAs HEMTより高速で低雑音の増幅器を実現できるInP HEMTを用いることで、より広帯域で高い増幅率をもつ低雑音増幅器を構成。同増幅器は、受信アンテナから低雑音増幅器にいたる配線部とは反対の伝送特性を有しており、配線部で生じる波形歪みを打ち消して元の受信波形に近い信号を得ることができる。

一方の高安定短パルス発生技術は、送信信号の時間的ゆらぎが短パルス発生器での短パルス発生のタイミングが変動するために生じことから、10Gbpsデータ信号と比較してジッタの小さい10GHzクロック信号を基に、10Gbpsデータ信号を参照しながら短パルスを発生する新回路をInP HEMTの短パルス発生器に採用したというもの。

これらの技術を用い、光ファイバインタフェースを搭載した信号処理部を含むインパルス無線方式ミリ波通信装置を開発。同装置の受信機において、受信感度0.25μWと、キロメートルクラスの無線伝送に必要な高感度特性とともに、良好な受信波形が得られることが確認された。また、送信機では、10Gbpsミリ波パルス信号のジッタが0.3psと、従来実績より安定度が5倍以上向上したことが確認された。実際に送信機と受信機を対向させ、室内伝送実験を行なった結果では、インパルス無線方式ミリ波通信装置で、10Gbpsを超える無線通信に成功したという。

開発したインパルス無線方式RF受信部(左)と10Gbps受信検波出力測定結果(縦軸:出力電圧、横軸:時間)(右)

今回開発された技術を用いることで、従来の方式で不可欠だった発振器やミキサなどが不要となり、ミリ波通信装置の小型化による低コスト化が実現することとなる。また、光ファイバ通信網の代替としてデジタルデバイド解消に向けた基幹回線への適用が可能となるほか、屋内高速無線LAN、高分解能レーダーなどに向けた応用が考えられる。

なお、富士通と富士通研究所では、今回の成果を基に、無線基幹回線をターゲットに2012年ごろの実用システム開発に向け、フィールドでの試験を行っていくとしている。