デルが、公共ビジネスにおける事業拡大を加速しようとしている。

日本においては、2006年に防衛省に5万6000台のPCを導入するなどの大型一括契約の実績を持つ一方、大学や研究機関においても、数多くの導入実績があり、公共市場セグメントでは、すでに国内第3位の市場シェアを獲得しているという。

そのデルが、グローバル規模での組織の再編に伴い、これまで以上に公共市場に力を注ぐ体制を整えた。そこで、本誌は、米Dellの公共事業本部 日本・アジア太平洋地域プレジデントであるJoseph Kremer(ジョセフ・クレマー)氏と、デル 執行役員 北アジア地域 公共事業本部 統括本部長である郡信一郎氏に、デルの公共分野に向けた取り組みについて聞いた。

グローバルで組織体制を大幅刷新

米Dellの公共事業本部 日本・アジア太平洋地域プレジデントであるジョセフ・クレマー氏

デルは、今年1月から、4つのグローバルビジネスユニット体制へと組織を再編した。大手企業を中心とした「ラージエンタープライズ」、新興国市場を主要ターゲットに含む「中小企業」、先頃、エイリアンウェアの世界展開に本格的に踏み出した「コンシューマ」、そして、最後に「公共」である。

公共事業に関しては、「小中、高校向け教育分野」、大学・研究所などの「高等教育分野」、「医療分野(ヘルスケア、ライフサイエンス)」、「政府・官公庁・自治体分野」の4つにわけられる。

クレマー氏は、「デルの売り上げ高は昨年度実績で約600億ドル、その約4分の1を公共ビジネスが占めている。組織を再編したことで、それぞれの領域において顧客に近いところでビジネスができるようになった」と語る。

例えば、製品開発についても、従来ならば中小企業向けに開発された製品などを、教育分野に投入していたが、グローバルビジネスユニットに再編したことで、教育分野に最適化した製品を開発したり、医療分野に最適化した製品を開発できるようになる。

新体制が生んだ、
小中学校向けカスタマイズPC「Latitude 2100」

実際、先頃投入した「Dell Latitude 2100」は教育分野での利用を想定したPCであり、子供でも持ちやすく、耐久性に優れたラバー加工を筐体に採用。キーボード操作に慣れいてない低学年の児童でも使えるように、タッチスクリーンの液晶を選択することができるといった工夫が凝らされている。キーボードを抗菌仕様※1としているのも、複数の子供が使用するという学校現場を想定したもの。一方で、1人1台で利用環境に向けては、本体背面にネームプレート入れを用意している。

※1 抗菌仕様については、国により対応が異なり、日本市場は未対応。

デルでは、Latitude 2100について「児童、生徒が少しぐらい手荒に使っても壊れない」(クレマー氏)という点を特に強調。「小中学校分野向けにカスタマイズした最初の製品」(クレマー氏)と位置づけている。

CPUはIntel Atom N270(1.6GHz)、ディスプレイは1,024×576ドット表示の10.1インチワイド液晶という、いわばネットブック仕様のPCだが、低コストで多くの学校へ普及させるという点では最適なPCだといえる。2012年までには、教育分野で使用されるPCの約3分の1がネットブックと予想されるというデータもあり、ネットブックプラットフォームの採用は的を射ている。

小中学校分野向けにカスタマイズされたPC「Latitude 2100」。小型、軽量、頑丈など、小学校低学年でも問題なく使えるよう設計されている

デル 執行役員 北アジア地域 公共事業本部 統括本部長 郡信一郎氏

そして、教育分野での導入、検討が行いやすいように、モデルチェンジのサイクルを1年とするなど、一般的なネットブックの開発コンセプトとは一線を画している点も見逃せない。

「今後、教育分野に留まらず、公共分野に最適化したPCの開発は前向きに検討していきたい。軍事分野には、フィールドの過酷な使用条件にも耐えうる堅牢性が必要であり、医療分野には電子カルテ化の推進に伴い求められる要件がある。当然、教育分野でもLatitude 2100を使用してもらえば、様々な要望が出てくるだろう。こうした声を次の製品づくりに反映したい」(クレマー氏)

Latitude 2100は、欧米を中心とした現場の教員や、学校CIOなどの声を聞いて製品化したという。日本からは、マーケティング部門を通じた調査をもとに要求を出している。

「日本の教育現場からの声を反映した製品を作ることは必要だろう。また、教育分野に限らず、日本の公共ユーザーの声を反映したいと考えている。そのひとつとして、公共分野のユーザーによるコミュニティづくりにも取り組んでいきたい」と、郡氏は語る。

Latitude 2100のトップカバーは、チョークボードブラック、スクールハウスレッド、ブルーリボンの3色。利用した生徒からは「すでにピンクを出してほしいというフィードバックをもらっている」(郡氏)という