インターネットの普及はデザイン、技術、広告など様々な業界に新たな職業を生み出してきたが、また新たな職業が誕生したようだ。仕事の内容を調べに来た人が多かったのか、4月のネット事件簿ランキングはそれを扱った記事が断トツで1位を獲得。長らく騒動の続いた「Doblog」が最後の決着を見たニュースは2位にとどまったが、風俗・薬物で殺伐とするランキングの中、違う次元で苦笑を提供してくれた。
2009年4月のネット事件簿 Top10(※)
順位 | 記事 | 掲載日 |
---|---|---|
1位 | 「チャットレディ」わいせつライブ配信事件、利用者へも警告 - 大阪府警 | 4/10 |
2位 | データロスト騒動のブログ「Doblog」、5月30日に閉鎖を発表 - NTTデータ | 4/27 |
3位 | 残酷ゲームなぞらえ? 「赤坂サカスに血のアメを」犯行予告で逮捕 - 警視庁 | 4/27 |
4位 | ケータイ掲示板「MP3変換所」管理人逮捕、楽曲所望の声に応え… - 福岡県警 | 4/20 |
5位 | 定期券の熱転写型インクリボンを盗んでネット出品 - JR北海道職員を処分へ | 4/15 |
6位 | 覚醒剤は「ドラスト中村屋」で買った……所持者から判明で摘発 - 岩手県警 | 4/1 |
7位 | 大麻種子販売サイト「SEEDS BANK」運営者ら2人逮捕 - 警視庁など合同捜査 | 4/24 |
8位 | 児童ポルノサイトに広告仲介、代理店社長をほう助で送検 - 神奈川県警 | 4/1 |
9位 | 侵入したネットバンクから不正送金、電子計算機使用詐欺で逮捕 - 京都府警 | 4/15 |
10位 | 「とばしあります」覚せい剤を隠語で宣伝、35歳男書類送検 - 滋賀県警 | 4/16 |
※ 各記事の掲載日(4/1〜4/30)から1週間のアクセス数をもとにしています。
謎の職業「チャットレディ」、その業務内容とは?
「フロアレディ」という職業を知ったのは多分12、3歳の頃だったと思う。「床の女?」…… 新聞の折込求人広告でにっこり笑う女の人のイラストを見て、どこかのフロアに立って人を案内する仕事なのかと想像していた。本当の意味を知ったのはそれから数年後なのだが、今や専門の求人誌が出たり、女子高生の憧れの職業にランクインすることもあるなどすっかり陽の当たる場所に。こんな遠回しな言い方はもはや死語なのだろう。
「チャットレディ」を額面通り受け取れば「チャットする女」。それを職業にする人といえば、出会い系サイトのサクラさんのことか? と思いきや、「わいせつライブ配信」て……。やはり技術は昼に作られ夜に普及するものなのか。
インターネットでアダルト映像を配信する業者は、風俗営業法により公安委員会に届け出をしなくてはならないことになっている。許可ではなくあくまで"届け出"で、まずは公安で実体を把握しようということのようだが、条文を読む限りでは動画配信の形態を想定して作られた法律だと思われる。
例えば、映像を送信する装置の設置者は、記録媒体に「わいせつな映像又は児童ポルノ映像を記録したことを知つたときは、当該映像の送信を防止するため必要な措置を講ずるよう努めなければならない」となっている。つまり、プロバイダやホスティング事業者がわいせつ映像配信と知っていながらサーバを使わせたら犯罪ということになる。
しかし、ビデオチャットは記録媒体に記録しないからこれに該当しないとこのサイトの運営者は考えたのだろうか。まぁ、抜け道といえば抜け道だ。だが、運営者らが逮捕された理由は「風営法違反」ではなく「公然わいせつ」の疑い。刑法第百七十四条の「公然とわいせつな行為をした者」に該当すると判断されたわけだ。
チャットなら1対1だから"公然"ではないのでは? と思うかもしれないが、何も全裸で走り回る人だけを取り締まる法律ではない。一人ひとりに見せてまわるコートおじさんだって同じ罪に問われるのだ。
ところで、とある町のレストランで地元情報のフリーペーパーを見ていたら、後半の求人欄にはフロアレディとサクラさんの広告ばかりだった。世に需要と供給ありにけり、だ。
自己保身がバッシングを加速することもノウハウに蓄積を
下馬評ではトップ獲得が確実視されていた「Doblog」閉鎖のニュース。ワイドショー的な騒がしさに押されて2位となったが、ネット業界的には最も注目されたニュースと言っていいだろう。この2月から3カ月以上の間、事実上のサービス停止状態が続いていたが、最終的にサービス閉鎖という形で決着がつけられたわけだ。ブログ、SNS、動画投稿サイトなど、CGMがネットの世界で大きな存在感を持つようになった今、改めてサービスのありかたについて考えさせられる出来事だった。
2009年5月30日をもって「Doblog」は閉鎖。跡地には、ユーザーの期待に添えなかったことへのお詫びの文言が残されている |
おそらく、Doblogはこれまでサービスとして収益化には至っていなかっただろうし、再オープンしたとしても当面はさらに叩かれるのが確実で、利用者拡大を見込むのは難しい。サービス閉鎖は"経営的に正しい判断"という考えだったのだろう。
しかし、運営会社はこれについて「Doblog開設時の目的である、ブログシステムを構築するための技術的知見、およびコミュニティサービスを運用・運営するためのノウハウの蓄積については十分に達成できた」ためと発表。同サービスの価値を実験的なものだったとすることで、自己保身とユーザー軽視の印象を強烈に与え、最後まで墓穴を掘り続ける姿を見せてくれた。要らぬ言い訳をしたものだ。
昨年11月にライブドアのSNS「frepa」が、今年3月にはミニブログ「nowa」がサービスの提供を終了。アバターを中心としたコミュニケーションサービス「Cafesta」が5月末にサービスを終了した。また、NHN Japanの運営する「CURURU」は11月30日にサービスを終了することを先月発表している。
Webサービス運営会社はそれを事業として成り立たせる必要があるわけで、広告収入や有料会員制度、課金コンテンツなどが試みられているが、多くのサービスは走りながら次の燃料を探しているというのが実情だと思われる。厳しい経済状況の折、サービス運営会社にはDoblogのような不幸な事故はぜひ全力で回避していただきつつ、ユーザー側もWebサービスが永遠でないことを頭のどこかに留めて置いたほうがいいのかもしれない。
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