東北大学大学院工学研究科の新田淳作教授らの研究グループは、半導体二次元電子ガスを細線構造に微細加工するとともにゲート電界でスピン軌道相互作用を制御することでスピン寿命を従来比で1桁以上増大させることに成功したことを明らかにした。
電界効果スピントランジスタの実現には、電界によるスピンの制御とスピンの情報を消失するスピン緩和の抑制が不可欠となっている。同研究グループでは、これまで、ゲート電界によりスピン軌道相互作用を制御し、磁場により制御されていたスピンの回転角度を電界でスピン回転制御することに成功していたが、スピン軌道相互作用は、電子の散乱とともに有効磁場の方向を変えるため、スピンの向きはバラバラとなりスピン緩和の原因となっていた。
起源の異なる2つのスピン軌道相互作用を同じ強さにすることでスピンの緩和が抑制され、スピン共鳴緩和抑制状態(永久スピン螺旋状態)が実現されることは、理論的に予言されており、米カルフォルニア大バークレー校、サンタバーバラ校、スタンフォード大学の共同研究チームが光学測定で永久スピン螺旋状態の実現を観測した報告なども行われていた。しかし、スピン軌道相互作用のゲート電界制御ができていないためスピン軌道相互作用の異なったいくつかの試料を用意する必要があった。
同研究グループでは、米国の研究グループが用いたGaAsに比べてスピン軌道相互作用の強いInGaAs二次元電子ガスを用いて細線構造を作製した。
1μm以下の細線構造にすることで電子の運動する方向を制限、スピン軌道相互作用が作る有効磁場の向きをほぼ一定方向とし、スピンの緩和を抑制した。
また、スピン軌道相互作用を制御するためのゲート電極で細線構造を覆い、ゲート電界によりスピン軌道相互作用を変化させながらスピン寿命時間を磁気伝導特性により詳細に調べたところ、二次元電子ガスの場合に比べて1桁以上増大することに成功した。この結果、スピン共鳴緩和抑制状態が実現していることを示し、電子散乱体の存在する半導体チャネルにおいてもゲート電圧によりスピンの向きをバラバラにしたり、一定方向にそろえたりすることが可能となることが示された。
同研究グループでは、半導体中のスピン寿命をゲート電界により自在に制御することが可能となることで、スピントロニクスへの応用が期待できるとしており、例えば磁性体電極から半導体中へのスピン注入技術と組み合わせることで電界効果スピントランジスタや共鳴スピン緩和抑制トランジスタへの応用が期待されるという。