ピーター・アイザックソン氏

アドビにおいて最大のマーケットである教育市場。デザインを軸に、教育機関とどのような連携を図っているのか。世界と日本、テクノロジーとデザインについてなど、世界の教育市場を統括するピーター・アイザックソン氏に話しを伺った。ピーター・アイザックソン氏はワールドワイド・エデュケーションセンター、副社長。フィールドマーケティングを行いつつ、コンテンツビジネス、ソリューションビジネスを展開しているという人物だ。

教育機関へのソリューション提供

アプリケーション開発を主軸として、アドビ社のサービスはテクノロジーの側面ばかりに注目されがちだが、実は多面的な取り組みが行われていることについては、あまりご存じないのではないだろうか。ことさら、最大のマーケットと言われる教育機関に向けての動きは、新たな局面を迎えているようだ。米アドビ社でワールドワイド・エデュケーションを統括するピーター・アイザックソン氏によると、表現の手段だけでなく「伝える」ための手段として、クリエイティブツールを効果的に使う学生が増えてきている、とのこと。そのことが示唆するのは、教育機関とアドビ社との新しい関係の築き方でもある。

「従来のアドビは、クリエイティブのプロを対象にしていたのはご存知の通りですが、現在は、さまざまな分野の学生も対象になってきています。生物学、サイエンス、歴史、工学系など、ジャンルを問わず、彼らはアイディアをWeb、映像などメディアをまたいだクリエイティブツールを利用することでより効果的に表現でき、伝えることができることに気づいているんですね」

学生にツールを使ってもらうためには、テクノロジー開発を行うと同時に、大学や教職員など、教える側の立場に、学校というシステムのなかでいかに技術を活用してもらうかが重要になってくる。その点についてアイザックソン氏は次のように語った。

「学生にとってのメリットを考えれば、これからは教育者や開発者の人材育成をトレインするためのソリューションをアドビがいかに提供できるかということではないかと思います。具体的には、いまあるカリキュラムにツールをうまく取り込んでもらうこと。それが、教育市場への大きなビジネス戦略でもあるんです」

日本の教育機関の特徴と先進性

ワールドワイドな視野で教育市場を俯瞰するアイザックソン氏。世界各国で予算のカット、合理化といったクリエイティブを取り巻く環境に共通のトレンドがあることを語りつつも、今回の来日で研究者にヒアリングした結果、日本の教育機関では世界とは異なる、独自の特徴があったという。

「今回の来日で訪問した研究者たちは、デザインの背景にある、プロセス、法的な問題点なども取り込むような幅の広い包括的なアプローチをしていることがわかりました。たとえば、デザインとテクノロジーは、互いに独立した側面でしかありませんでしが、両方を組み合わせた結果として出てくるユーザ体験、社会やエンドユーザに与える影響などを予め考えてデザインしていくという全体主義的なアプローチが行われています。これは先進的なプログラムで、おそらく今後、世界の主流になるのではないでしょうか」

デザインを軸にした教育機関との連携

高等教育機関のデザインや情報工学などを専門とする教員に焦点を当てた、コミュニケーションプログラム、Adobe Japan Education Vangeards

アドビ ジャパンのWebサイト内には、2007年の12月より日本独自のコンテンツとしてAdobe Japan Education Vanguards(アドビ ジャパン エデュケーション バンガード)が公開されている。同コンテンツは、高等教育機関の教員がアドビ社とディスカッションを行えるようなコミュニティサイトであり、教員側からは、教育現場が直面している課題やトレンドといった情報が提供され、アドビ社からはそれらに対する取り組み、テクノロジーの方向性などを提供する場として機能している。教育機関との連携という点では、象徴的なアプローチである。

「アドビ社はデザインの世界と開発の世界を融合して、一体化する方向に進んでいます。そして日本の大学など、教育機関とも足踏みを揃えて連携していく話しを進めているところです。新しい分野に関しては、未開拓ではあるという認識があるのは正直なところですが、これまでデザインという分野に特化してきたところから、自然にデベロッパーにも対象を拡げることができていると思います」

デザインを中心に置きながら、クリエイティブというひとつの分野だけでなく、教育市場においても更なる展望を見据えるアイザックソン氏。最後に付け加えたのは、やはりデザインという概念へのブレのない確信のような言葉であった。

「デザインは、人々が思っているよりも重要であり、差別化するための要素でもあるということ。モノのデザインということではなくて、プロセスのために使われる方法であり、今後は今よりも重要視されるだろうし、教育市場においてもそうなるに違いないと思います」