産業技術総合研究所のエレクトロニクス研究部門 超伝導計測デバイスグループは、ペロブスカイト型酸化物薄膜を用いて赤色を発光するEL素子を開発したことを明らかにした。発光開始電圧は交流10V程度であり、低電圧駆動のため電源の小型化が可能と考えられる。
今回の無機EL素子は、電極基板上に絶縁層/発光層/絶縁層をパルスレーザー堆積法(PLD法)を用い積層して作製。作製条件は、ArFエキシマレーザー(波長193nm)を使用し、基板温度は700℃、成長雰囲気は酸素10Paで、大気中での熱処理後、PLD法で透明電極を形成しEL素子とした。
作製されたペロブスカイト型酸化物を用いた無機EL素子の発光 |
具体的には、電極基板としてはNbを1%添加したチタン酸ストロンチウム(1%Nb-SrTiO3)を用い、発光層としてはペロブスカイト型酸化物であるチタン酸カルシウム・ストロンチウム((Ca0.6Sr0.4)TiO3)のAサイトに微量のプラセオジム(Pr)を発光中心として添加したもの、絶縁層としてペロブスカイト型酸化物のチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)を用いた。PLD法により、これらの薄膜を連続成長させ、二重絶縁構造薄膜EL素子を作製。上部の透明電極はITOもしくはSnO2膜で、全層が配向成長していることがX線回析測定によって確認された。
作製した無機EL素子の発光開始電圧は約10Vであり、これまでの無機EL素子の1/10以下の低電圧となる。これに14V、1kHzの交流電圧を加えたときの発光スペクトルは、中心波長612nmがピークで、赤色の発光となり、透明電極全体は一様に赤色に面発光しており、広い視野角が得られることが確認された。なお、この発光はPr3+イオンの1D2から3H4へのエネルギー遷移によると考えられている。
また、二層の発光層を持つ二重絶縁構造薄膜EL素子を作製し、単層発光層のEL素子のおよそ二倍の電圧となる24Vで強い赤色面発光を得られることも確認された。
同研究チームでは、発光層をはじめ素子の各層は優れた化学的安定性を持つ無機材料で構成されるため酸化や熱による特性の劣化が極めて少なく、封止などのプロセスが短縮でき、製造プロセスの省エネルギー化への期待と、従来と比べて低電圧で面発光するEL素子ができたことで、広範な応用が期待できるとしている。
しかし、ペロブスカイト型酸化物を用いた無機EL素子を照明・光源・ディスプレイとして実用化するには、輝度の向上、低コストで大面積化する技術の確立、多色化が必要となるとしており、今後は、発光特性の最適化と輝度向上、ナノテクノロジーを応用した大面積化技術の確立と高機能化や、他の材料を用いたEL素子の開発によるRGB三原色の実現を目指すとしている。