インテルと内田洋行は5月27日、2008年8月に発表した千葉県柏市の小学校2校に対する、PCを活用した学習効果の実証実験に続く第2弾の実証実験を開始することを発表した。

今回対象となるのは、東京駅から徒歩3分の場所に位置し、2008年度より東京都中央区のフロンティアスクールの指定を受けている中央区立城東小学校の4年生から6年生までの全児童24名。柏市の実験では、国語と算数でのICT活用だったが、今回は、学習指導要領の変更に伴い、外国語活動(英語)も対象授業に追加され、複数の児童が1台のPCを使っていた柏のケースとは違い、今回は1人に1台のPCが割り当てられる。

第2弾の実証実験の対象校となった東京都中央区立城東小学校(4年から6年生の26名の児童が対象となる)

26名の児童には1人に1台、Intelの教育向けコンセプトPCの第3世代品が提供されることとなる

教育専用というコンセプトのPC

インテル代表取締役社長の吉田和正氏

インテルの代表取締役社長である吉田和正氏は、「目標は児童1人に1台のPC」とし、市販のPCでどういった機能が学校という特殊な環境で過不足となっているのかを、柏市の実験に参加している教師や児童などからの意見を元に取り入れた、"学習に適した教育専用PC端末"として第3世代となる「Intel クラスメイトPC」を今回の実証実験では提供する。

同PCは、ネットブックをベースにしており、CPUはAtom N270、8.9型液晶(1024×600画素)で、メモリは512M/1G/2GB、SSDは4G/8G/16GBを要件や予算に応じて変更することが可能。液晶パネルは感応式タッチパネルとなっており、漢字の書き取りなどを直接書き込めるのは、前回の実験の仕様と変化はない。

吉田氏が手に持っているのが今回提供されるクラスメイトPC(重量は仕様により1.2kg~1.4kg)

学習机の上にクラスメイトPCを置いてみた感じ

また、インタフェースとしてはUSB×2、SDスロット×1、RGB出力×1が用意されているほか、Bluetoothもオプションで用意されている。このほか、無線LANとしてはIEEE 802.11b/g/nに対応し、130万画素のWebカメラも搭載、タブレット形態にした場合は、モーションセンサにより自動的にモニタの向きを変化させる。バッテリは4セルで4時間駆動だが、こちらもオプションで6セル(6時間駆動)品が用意されている。今回の実験で提供されるPCの場合、メモリは1GB、SSDはSan Disk製の16GBとなっている。なお、同PCは、ねじ穴が外見上に無いため、勝手に分解されるという恐れはかなり低くなっている。

クラスメイトPCを正面から見たところ

タブレット形状にしたところ(取っ手はゴム製。画面の右上に見える青いIntelのロゴが通常の天板部分)

クラスメイトPCの左側面(オーディオ、USB、イーサネットの各コネクタが並ぶ)

クラスメイトPCの右側面(電源、SDカードスロット、USB、RGB出力の各コネクタが並ぶ)

ICT活用のための課題の洗い出しへ

内田洋行の代表取締役社長である柏原孝氏

一方、内田洋行の代表取締役社長の柏原孝氏は、2010年が同社の設立100周年ということに触れ、「この100年で教育を取り巻く環境は大きく変化した。現在も、教育改革の名の下、学校を取り巻く環境は大きく変化している」とするほか、「加えて、ICTの普及により、すべての学校にPCが完備され、校内LANの敷設も60%に達している。すぐに教師がICTを活用して授業が行う時代がやってくる」とした。ただし、ICTが教育現場へ浸透するためには、ネットワーク環境の整備や授業デザインの最適化など、多くの課題が残されているはずとし、「インテルと内田洋行が進める実証実験により、それらを洗い出し、新しい時代に向けたスタートを切り出したい」とした。

現実が未来に向けて動きだす

内田洋行の取締役専務執行役員である大久保昇氏

また、同社取締役専務執行役員の大久保昇氏は、学校へのICT普及に対し、「"授業内容に合わせたデジタル学習コンテンツ"と"普通教室での利用を想定したICT運用のサポート体制"の2つが重要な課題となる」と語る。柏原氏の話でも触れたが、2008年に新学習指導要領が公示。同要領では、ICT利活用への言及と、40年ぶりとなる授業時間の増加が盛り込まれており、2009年度より移行措置期間が開始されている。大久保氏は、「学力というものは、単に"知識"ではなく、"考える力"をつけさせることが重要。ICTの活用を通じた多様な教育の中から、子供の学力を伸ばせれば」と期待を寄せる。

事実、文部科学省が示した「平成19年度 ICTを活用した指導の効果の調査結果」では、ICTの活用が学力向上につながるという結果がでているほか、教員からの評価も高まってきていることが見て取れる。

文部科学省による 「平成19年度 ICTを活用した指導の効果の調査結果」におけるICTを活用した実証実験を行った教員による評価

しかし、これまで日本のICT教育は、予算が少ないため、ICTの利活用が上手くできない、上手くできないからICTの利活用が授業に取り入れられない、取り入れられないから予算が少ない、という負のスパイラルに陥っていた。これまで文部科学省も色々と目標を掲げてきたが、いずれも達成したとは言い切れず、「敢えて言うのであれば、むしろ後退していた」(大久保氏)というほどであり、そうした役所の成果を待っていると、いつ成功するのかがまったく読めない。だからこそ「民間は民間でできることを独自に進めていく」(大久保氏)と、今回の実験の意義を説明する。

インフラ整備が不十分であり、そのためにICTの利活用が進まないのが現状

ただし、平成21年度補正予算として、「学校ICT環境整備事業」に総額4,081億円が計上されており、「これが実現すれば、1人に1台のPC時代が早晩来るかもしれない。内田洋行もインテルもゆっくりと実験をやっているつもりはないし、こうした予算のためにやってるつもりは毛頭ない」とし、現実が未来に向けて動き出したことを協調した。

平成21年度補正予算として計上された「学校ICT環境整備事業」の予算総額と使用先例

なお、今回の実証実験では、都心にあるということを活かし、複数のアクセスポイントの発見が予想される無線LAN環境に関する検証や、電子黒板とPCの連動による効果的な授業の実証、教育現場で求められるソフトウェアの使用実態の調査などの、授業の周辺に関する検証も進めていくという。