DSPコアのライセンサである米CEVAは5月26日、都内で記者会見を開催し、同社の事業方針ならびに現在の同社のDSPコアの動向の説明などを行った。

日本シーバ代表取締役社長の日比野一敬氏

同社の日本法人である日本シーバ代表取締役社長の日比野一敬氏は、CEVAの競争優位性として、「現在、8,500万ドルのキャッシュを保有し、安定した経営基盤を構築。これにより、事業方針の転換や買収による顧客へのサポートの消失といったことが起きにくい状況を作っている」と語る。同社の2009年第1四半期の業績は、世界的な半導体不況の最中にあっても、新規ライセンスの増加が寄与し、売上高が900万ドル、最終利益は220万ドルと黒字を確保しており、「ロイヤリティ収入も増えてきているが、それ以上に新規ライセンスの収入が現在も上回っている」(同)と、新規ライセンスが増加中であることから、将来的なロイヤリティ収入の増加につながり、長期的な売り上げ確保が可能になるという。

CEVAのVice President of Corporate MarketingであるEran Briman氏

同社のDSPコアは、オーディオ処理向けの「CEVA-Teak」ファミリとオーディオおよびビデオ処理向けの「CEVA-X」ファミリに大別されるほか、2009年2月には3Gおよび4Gの携帯電話向けDSPコアとして「CEVA-XC」ファミリを発表している。CEVA-Xファミリはアジアや欧州などの携帯電話のベースバンドLSIのDSPコアとして搭載実績が伸びてきており、「2006年第4四半期のころには同分野でのシェアは4%程度であったが、2年ほど前からNOKIAがTexas Instruments(TI)からの1社調達からCEVAのDSPを搭載したベースバンドLSIを複数社から調達する方針に切り替えを開始させたほか、Samsung ElectronicsやSony Ericsson、LG Electronicsなどの携帯電話シェアトップ5に入るメーカーも複数社からの調達を進め始めており、急激に伸び始めた」とCEVAのVice President of Corporate MarketingであるEran Briman氏は語る。

CEVAのDSPコアロードマップ(CEVA-XとCEVA-XCはおなじCEVA-Xアーキテクチャを用いている)

NOKIAのベースバンドLSIの調達の変化(左)とSamsung、Sony Ericsson、LG各社の動き(右)(いずれのチップにもCEVAのDSPコアが搭載されているという)

このため、2009年第1四半期の携帯電話用ベースバンドLSIのシェアは18%にまで拡大。Briman氏は、「2009年末には25%までシェアが伸びる」との見通しを示している。国内でもシャープの携帯電話に搭載されるなどの実績はあるが、「国内の携帯電話市場に参入したとは言い切れず、2009年から本格参入を果たす」(日比野氏)とし、各種通信分野のメーカーに向けCEVA-XCの提供を開始、すでに大手メーカーで技術検討が始まっていることを明らかにした。

CEVAのDSPコアを採用したベースバンドLSIのシェアの推移

CEVAのDSPコアを搭載した主な携帯電話

同社のDSPコアを搭載したベースバンドLSIは、ローエンドの携帯電話のみならず、iPhone 3Gといったスマートフォンにも採用されており、「2013年にはスマートフォンは全携帯電話の38%を占めるまでに成長すると予測されており、こうしたハイエンドの携帯電話にも搭載されることがシェア拡大の後押しとなる」(Briman氏)とし、シェアの拡大に自信を見せる。

携帯電話市場の推移予測(中国とインドが市場を牽引するほか、2009年を底に市場が再び拡大傾向に入るとの予測がなされている)

また、同社のDSPコアは基地局向けチップでの使用が可能な柔軟性を備えており、すでにフェムトセルおよびピコセル向けに4ライセンス、メディアゲートウェイおよびNGN向けに2ライセンス提供されており、中には10コアを1チップに搭載することで、通常複数のDSPを用いて処理するところを1チップによる処理を行うといった試みも行われているという。

中でもCEVA-XCは、4Gの送受信を1コアで実現することを目的として開発されたもので、LTEのカテゴリ5やWiMAX IIの動作をソフトウェアで処理することが可能になるとしており、携帯電話のベースバンドLSIから基地局の重い処理まで幅広く対応できるような設計が施されているという。

CEVA-XCのブロックダイアグラム(Vector Communication Unitの数を変えることで性能を変化させることが可能)

具体的には、処理エンジンとなる「Vector Communication Unit」に4つの演算器を用意。同ユニットは、要求される処理能力に応じて1~4ユニットまで選択することが可能であり、ユニットの枚数を変えることにより、携帯電話内の処理から基地局の処理まで幅広く対応することが可能になるという。

また、同社は同日、LTE向けソフトウェアの提供を行っている独mimoOnと提携したことを併せて発表し、CEVA-XC上にmimoOnのLTEソフトウェア「mi!MobilePHY」を提供することで、「世界初のLTEのソフトウェア処理をベースにしたソリューションの提供が可能になる」(Briman氏)とする。

このほか、同社はHDオーディオアプリケーション向け開発プラットフォーム「CEVA-HD-Audio」を2009年1月に発表しているが、これについても、CEVAのDSPシリコン上で、Blu-Ray向けの認証済み「Dolby TrueHD(7.1ch)」の認証を得たことも明らかにした。同会見の場にも、SMICの90nmプロセスを用いたデモチップが用意、プライマリストリーム(Dolby TrueHD 7.1ch)とセカンダリストリーム(DD-Plus 5.1ch)の2ストリームを、デコード、SRC(Sampling Rate Converter)、Mixing、Post Processing、Encoderといったすべての処理を1コアで実行できることを示して見せた。

CEVA-HD-Audioのブロックダイアグラム(左)とBlu-Ray Audioの処理図および求められる性能グラフ(右)

Briman氏は、「一連の処理に必要とされる処理量は同DSPコアでは300MHz。動作周波数を抑えられるため、外部メモリもDDR2-800と比較的低速なものに抑えられることから低コスト化が図れるようになる」とし、すでに認証済みであることの強みも含めて、顧客に短期市場投入の可能性などを示していくとした。

「Dolby TrueHD」の実演デモ基板と、その基板を横から撮影したもの(3層になっており、一番したがメインボード、上2層がオーディオ用のアナログボードとのこと。同社はIPライセンスを提供するビジネスだが、検証やデモ用途として実際にチップを起こして使用している。今回のチップはSMICの90nmプロセスで製造し、600MHzで動作しているという。なお動作周波数やチップサイズは顧客の採用するプロセスや回路技術により変化するとのこと)

動画
実際のデモ演奏の様子(音質が悪いのは撮影した機材の質が悪いため。実際の現場ではノイズやひずみのない1チップによる7.1ch環境を体験することができた)(wmv形式 2.88MB 10秒)