パシフィコ横浜において開催されている「人とくるまのテクノロジー展 2009」では、自動車メーカー各社が環境を意識した部品の開発成果やリサイクル技術を展示している。三菱自動車、マツダ、いすゞ自動車の取り組みを見てみよう。

グリーンプラスチックの実用化を目指す三菱自動車

三菱自動車では、カーボンニュートラルとされる植物由来材料の研究を行い、石油由来材料に変わる新材料の開発を進めている。開発技術の総称を「グリーンプラスチック」と名付け、環境に配慮した自動車用部品の実用化を目指すという。同社のブースでは、5種類の植物由来材料とそれらをベースとした自動車部品を展示していた。

竹繊維植物由来ウレタン樹脂複合材

「竹繊維植物由来ウレタン樹脂複合材」は、ひま(トウゴマ)から抽出されるひまし油から製造するひまし油ポリオールとヤシの実から抽出されるヤシ油から製造するヤシ油グリセリンを原料とする植物由来ウレタン樹脂を、竹繊維で補強した内装部品用の材料。用途としては、ダッシュボード、ドアトリム、天井、シェルフボード、カーゴフロアボードなどが考えられるとのこと。同複合材は石油由来の現行品と比べ、原料採取から廃棄までのライフサイクル全体のCO2排出量を約3割削減できるとしている。

材料となる「竹」と製造された竹マット

材料となる「ひまし油ポリオール」「ヤシ油グリセリン」と添加物

「竹繊維植物由来ウレタン樹脂複合材」製のドアトリム

耐熱性PLA射出成形材

「耐熱性PLA射出成形材」は、植物由来のPLA(ポリ乳酸)樹脂にジュート繊維とポリアリレート繊維(石油由来)を組み合わせた内装部品用の材料で、従来のPLA樹脂と比べて耐熱性と耐衝撃性を大幅に向上することに成功したという。耐熱性に関しては現行材であるPP樹脂(石油由来)よりも高い性能を示し、耐衝撃性についても同等以上の性能を有するとのこと。同射出成形材は、2009年1月に開催されたダカールラリーに参加したサポートカーのドアトリム(4部品)に採用され、厳しい使用環境にさらされるラリーの現場で実用試験が行われている。

材料となる「乳酸」「ジュート繊維」と添加物

「耐熱性PLA射出成形材」製のスイッチパネルとドアポケット

PLA系複合素材表皮

「PLA系複合素材表皮」は、植物由来のPLA(ポリ乳酸)系複合素材を用いたシート表皮。複合素材とすることで、PLAのみの表皮と比べて柔軟性と耐久性を向上させたという。用途として、あらゆる内装表皮材への展開が可能とのこと。同シート表皮も、ダカールラリーに参加したサポートカーのシート表皮に採用された。

材料となる「乳酸」と製造されたPLA系複合繊維

「PLA系複合素材表皮」のシート

植物由来ウレタンクッション

「植物由来ウレタンクッション」は、ひまし油ポリオールを原料とするウレタン樹脂のクッションで、シートやヘッドレストのクッション用として開発中とのこと。

材料となる「ひまし油ポリオール」と添加物、右は製造された「植物由来ウレタンクッション」

液状化材木フェノール樹脂

「液状化材木フェノール樹脂」は、木材を主原料とする射出成形可能な熱硬化性樹脂材料で、スギの間伐材を利用しているという。同社では木材を原料とする樹脂の自動車部品への応用は世界初とし、間伐材の有効利用と付加価値向上が国内山林財政の一助となるのではとしている。同樹脂は耐熱性が高く、灰皿やオイルフィラーキャップ、プーリー、インシュレータなどエンジンルーム内の耐熱樹脂部品としての利用が可能で、電機絶縁性も高く、モーター部品などの電機部品への利用も考えられるとのこと。

材料となる「木材」と添加物

「液状化材木フェノール樹脂」製の灰皿、インシュレータ、オイルフィラーキャップ

同社では、これらグリーンプラスチックを1年以内に実用化したいとしているが、耐熱、耐衝撃など自動車特有のクリアしなければならない点、および製造コストの問題があるという。一般化するまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。

マツダは廃車バンパーのリサイクル自動化技術を開発

マツダのブースには、自動車の廃棄バンパーを新車用バンパーの材料としてリサイクルする新しい工程技術が展示されていた。これは3月に発表されたもので、メーカーが異なる廃棄バンパーの同時処理の実現、および金属類等の除去を自動化したことが特長だという。

廃棄バンパーのリサイクル処理には大きな2つの問題点があり、効率化の妨げとなっているという。一つ目は、自動車メーカーや製造年代の違いによりバンパー用ポリプロピレン材の組成や塗膜との密着性が異なり、混在してしまうと従来の技術では塗膜を除去できなかった点。二つ目は、目視と手作業による金属などの異物除去の作業が破砕する前の行程で必要な点。

新技術では、一つ目の問題を破砕した固体状態のバンパー樹脂に強いせん断応力を加えることで解決。材料の組成や塗膜の密着性に左右されずに塗装を除去する技術を確立したとしている。二つ目の問題は、振動と送風を利用して破砕後のバンパーから金属を分離する技術を確立することで異物除去工程の自動化が可能となり、解決できたという。

リサイクルでは材料の選別やコストが常に問題となるが、同社の技術はこれらを改善するものとして期待できる。早期の実用化が望まれる取り組みだ。

バンパー粉砕品から再生パレットができる間の生成物

リサイクルバンパーのカットモデル

いすゞは商用車用内装部品にリサイクル樹脂を採用

いすゞ自動車のブースでは、リサイクル樹脂を使用した内装部品を展示していた。商用車のセンターコンソールボックスに、主に使用済みの乗用車から回収したポリプロピレン製バンパーをリサイクルした樹脂を採用。2006年から実用化され、「エルフ」では40%以上、「フォワード」では50%以上、「ギガ」では50%以上のリサイクル材を含有した部品を使用しているという。

同社リサイクル材の特長は、黒以外の内装色を塗装せずに作り出す有彩色化技術など。主に材料として使われる回収バンパーは黒色だが、内装色としてはグレーなどの要望も多い。塗装を施すとコストがかかるため、添加剤等の工夫により材料への着色を実現したと説明していた。

材料となるバンパー破砕品、生成した再生樹脂ペレットと最終の成型品

リサイクル樹脂を使用したセンターコンソールボックス