三洋電機は5月22日、先の決算発表の際に明らかにした同社独自構造のHIT(Heterojunction with Intrinsic Thin layer)太陽電池で、変換効率23.0%を達成したことに関する説明会を開催した。

新たに開発された変換効率23.0%を達成したHIT太陽電池セル

三洋電機 研究開発本部 アドバンストエナジー研究所 所長の伊藤靖彦氏

HIT太陽電池は、発電層である単結晶(c-Si)層の表裏面に多結晶(a-Si)層を積層させることで、電荷の再結合損失を低減し、高い変換効率を実現する。今回の研究成果は、実用サイズである10cm×10cmを超す結晶Si系の太陽電池セルとして、変換効率を従来の22.3%から0.7ポイント増の23.0%を実現したというものだが、同社研究開発本部 アドバンストエナジー研究所 所長の伊藤靖彦氏は「元々の計画では2010年に23.0%は実現しようとしていたもの。これを前倒しできたのは実績として大きい」と語る。

c-Siとa-Siを接合して独自の太陽電池構造を構築

同社では、現在の年産340MW規模の生産能力を2010年度には600MWに引き上げる計画としており、今回の成果はその後の生産能力増加につながるものとしている。

2010年度には600MWに生産能力を拡張し、その後も市場を見極めながら拡張を行っていくという

3つの要素技術改良

この変換効率を実現した背景には、3つの要素技術の改良があるという。1つ目はHIT接合、つまりc-Si基板とa-Si層とのヘテロ接合の界面の高品質化。これにより、開放電圧(Voc)を従来の0.725Vから0.729Vへと改善することに成功した。具体的にはc-Si基板上にa-Si層を形成するのにはCVDを用いるが、これのプロセス改良によりa-Siを高品質化、界面に存在するSi原子の未結合手(ダングリングボンド)をa-Siに含まれるH原子と結合させ、電荷と結合することを防いだという。そのため、電荷のロスを防ぐことが可能になり、効率的に取り出すことが可能となったという。

HIT接合界面の改良により電荷を効率よくc-Siに届けることが可能に

2つ目は光吸収損失の低減。今回、透明導電膜層(TCO)の材料、物性を新たに開発、結晶サイズを大きくしたことにより移動度を向上させたことで、光の吸収を低減し、発電層のc-Siにより多くの光を届けることができるようになった。また、a-Si層も同様に光吸収を抑えたことにより、短絡電流(Isc)を従来の39.2mA/cm2から39.5mA/cm2へと改善を果たした。

a-Si層とTCO層を低光吸収化

3つ目は抵抗損失の低減。従来のグリッド電極は、Ag電極材料を塗布するとにじみにより、塗り面積が広がってしまっていた。グリッド電極の面積が少なければ太陽光があたるパネル面積が増えることから変換できる量が増えることとなる。そのため、Ag系材料の変更ならびに印刷プロセスの新規開発を行い、にじみが少なくて済む技術を開発した。ただし、配線は細くなれば、その分抵抗が高くなるため、抵抗を抑えるために高さを高くすることで、従来電極と同等の配線体積を実現している。これにより、曲線因子(F.F.)を従来の79.1%より80.0%へと改善することに成功した。

Ag材料の変更と印刷プロセスの改良により低抵抗化と高アスペクト比を実現

順次量産技術に転用を計画

三洋電機 研究開発本部 アドバンストエナジー研究所 ソーラーエナジー研究部 部長の丸山英治氏

同社では、今回開発した技術を「順次、量産ラインに適用していき、2~3年ですべての技術を盛り込みたい」(同社研究開発本部 アドバンストエナジー研究所 ソーラーエナジー研究部 部長の丸山英治氏)としている。

また、変換効率の向上は今後も続いていくとしており、「変換効率、コスト、信頼性の3点を重視して開発をし、特に変換効率の向上が太陽電池の強みになることは今後も変わらないと考えていることから、0.1%の改善にもこだわっていく」(伊藤氏)とする。

なお、今回の変換効率測定は上面のみの値であり、HITの特長である裏面の活用した場合、発電容量の増加などが期待されるという。