4月23日、アドビ システムズが主催する「Adobe Design Summit 2009」が開幕した。このイベントは「グッド・デザインで不況をぶっ飛ばせ!」をテーマに、よりよいクリエイティブ環境を見つめ直すもの。デザインとクリエイティブに特化した「アドビデザインDAY」(4月23日、24日)と、アプリケーションのテクニックに特化した「アドビティップスDAY」(5月20日)、あわせて3日間にわたって開催される。初日となった4月23日、会場のベルサール六本木には会場前から長蛇の列ができ、開演時間には600人の会場のほとんどが埋め尽くされた。
資生堂・山形季央氏「資生堂の歴史とデザイン」
基調講演を務めた株式会社 資生堂・宣伝制作部 部長・デザイン制作室長 山形季央氏は「進め!デザイン」をテーマに、100年を超える資生堂の歴史をデザインを軸に紹介。
それぞれの時代に作られた広告や商品が当時の女性社会に与えた影響や、逆に当時の女性像が広告や商品に反映された例などを挙げ、女性(=社会)と商品、そしてそのふたつを繋ぐために、デザインがどのような役割を果たしたかを当時のポスターを交えながら解説した。
戦後、物資が乏しく、化粧品が棚に並べられない時期でも、ポスターを貼っては世の女性を勇気づけたというエピソードや、長年にわたって形を変えながらもポスターやパッケージの中で継承される唐草模様の話、新人デザイナーの研修の一環として行われる「資生堂書体」の紹介など、長い歴史の中で育まれてきた「資生堂ブランド」の核ともいうべき内容がふんだんに盛り込まれていた。講演の最後には、資生堂の企業広告CM「新しい私になって」(90秒)が流され、聴講者は映像の持つ優しく、品のある佇まいに静かに見入っていた。CMに挿入された「一瞬も 一生も 美しく」というコピーは、資生堂から発信する女性に対するメッセージでありながら、資生堂という企業そのものの姿勢であるようにも感じられた。
続いてのセッションは、アドビ システムズ 株式会社の岩本崇氏による「今こそ検討の時!CreativeSuite4導入指南 ~ハードとソフトは二人三脚?~」。CS4の新機能を紹介するだけでなく、CS4の導入によってどのような制作ワークフローの効率化が見込めるのかを丁寧に解説。今、投資すべきポイントはどこなのか、経営的視点を交えつつ、アプリケーションのリプレイスのメリットを紹介した。
水野学氏、菊地敦己氏、植原亮輔氏「いいデザインとは何か?」
最後のセッションは、アートディレクター3名によるトークセッション。 グッドデザイン=いいデザインとは何か? をテーマに、グッドデザインカンパニー・水野学氏、ブルーマーク・菊地敦己氏、ドラフト・植原亮輔氏が意見を交わした。
いいデザイン、伝わるデザインをするには、表面的な表現ではなく、メッセージの発信元であるクライアントと密なコミュニケーションをとることが大切という三氏。「デザイナーとしての自信も企業のブランドも、小さな事を積み重ねていくことでしか獲得できない」という水野氏の発言は、多くの聴講者の胸に響いたようだ。堅苦しくならないように、と、普段の呼び名で呼び合いながら進む掛け合いに思わず笑いをこらえる聴講者も多く、一線で活躍するアートディレクターたちの本音を垣間見れる1時間だった。
4月24日大阪にて、永井一史氏「ブランドの伝え方」
4月24日、300人を収容するブリーゼプラザ・小ホール(大阪)は開演直前には満席となり、講演者への深い関心が感じられた。
基調講演は、株式会社HAKUHODO DESIGN 代表取締役・永井一史氏。「ブランドの伝え方」をテーマに、企業や商品のブランドをいかに消費者に伝えていくかを解説した。
ブランドを伝えるには、戦略、商品、シンボルという垂直展開と、PR、広告、パッケージ、店頭、Webという水平展開をいかに行っていくかが重要と述べ、サントリー「伊右衛門」と日本郵政「民営化」「年賀キャンペーン」のふたつの例を挙げて具体的な展開例を紹介。
「伊右衛門」では老舗の茶舗らしさを前面に打ち出すために発売当初から暖簾をコンセプトビジュアルに掲げ、CMやポスターにも一貫して本木雅弘さんと宮沢りえさんを起用。従来、積極的には飲料の広告を打たない冬なども、仕事納めや新年の挨拶を絡めた四季折々の広告展開をすることで、幅広いアプローチを可能にしたという。さらには、駅のコンビニを京都風の家屋にラッピングしたり、空港の玄関口に季節感あふれる広告スペースを設置したりと、従来のメディアという概念を越えたアプローチに聴講者は深い関心を寄せていた。
続いてのセッションは、アドビ システムズ 株式会社の岩本崇氏による「今こそ検討の時!CreativeSuite4導入指南 ~ハードとソフトは二人三脚?~」。初日同様、CS4の新機能と導入によるメリットを紹介した。
田中竜介氏、福岡南央子氏「『KITCHEN』と『世界のKitchenから』ができるまで」
最後のセッションは、ドラフト・田中竜介氏と福岡南央子氏による「『KITCHEN』と『世界のKitchenから』ができるまで」。田中・福岡両氏の代表的な仕事を軸に、その仕事がどのように進められたのか、そのプロセスを、実際に使われたデザインデータを紹介しながら解説した。
田中氏がデザインを手がけたベトナム料理店「KITCHEN」は、古くからの知人の依頼でスタートした仕事であり、アートディレクターとしての役割を自覚した仕事でもあったという。Photoshopで書いたイラストを少しずつずらし、パラパラ漫画の要領で作ったというムービーには聴講者も唖然。ほかにも、仕上がった文字原稿を一度プリントしてはスキャンをし、画像データとして文字を貼り込むことで風合いを出したり、焼き込みツールや覆い焼きツールを使った文字加工のテクニックなど、通常とはひと味違うツールの使い方に驚く参加者も多く見られた。
福岡氏が紹介する「世界のKitchenから」のパートでは、会場でも配布された「とろとろ桃のフルーニュ」の文字部分を題材に、どのように文字をデザインしているのかを具体的に解説。普段から収集しているという書体の見本帳や、空いた時間を見つけては作っているというオリジナルの書体データ集を紹介するなど、クリエイティブのヒントとなるアイディアが満載の1時間だった。
5月20日開催、「アドビティップスDAY」へ
2日間にわたって行われた「アドビデザインDAY」は、盛況のうちに幕をおろした。今回は、クリエイティビティのプロセス、あるいは実際の作品をもとにどのようなアイディアや工夫というものが隠されていたのかをひとつひとつ紐解く内容であった。では、アイディアや工夫をいかにカタチにしていくのか。そこで重要になるのがアプリケーションとの向き合い方である。5月20日の「アドビティップスDAY」では、アドビCS4を中心に据えた内容が準備されており、そのヒントを掴むことができるのではないだろうか。詳細はこちらより。