大成ロテック 常勤監査役 木内里美氏

4月20日から2日間にわたって開催されたガートナー主催のイベント「アウトソーシングサミット2009」で、「これからのパートナーシップのあり方」と題した、大成ロジック常勤監査役の木内里美氏によるゲスト基調講演が行われた。

同イベントは、"混迷期を乗り切るソーシング戦略"という副題が示すように、現在の予測しがたい経営環境の変化に柔軟かつ迅速に適応できるアウトソーシングの方向性や実践的ヒントなどを議論することを目的としたもの。ゲストスピーチを行った木内氏は大手デベロッパの大成建設で長年にわたってCIO(最高情報責任者)を務め、ユーザー企業とITベンダのパートナーシップ構築に尽力した第一人者だ。

木内氏はまず、1960年代に始まった企業コンピュータ黎明期から現代までの情報システム環境の歩みについて振り返った。「1960年代は商用汎用コンピュータとして、コンピュータを使えるのは大企業に限られていた。これが1970年代に入り、オフィスコンピュータ化し、1980年代には、ネットワーク、オープンシステム、ダウンサイジング、マルチメディア化が進み、いわゆる"ネ・オ・ダ・マ"時代が到来し、コンピュータがミニコンから、ワークステーション、パーソナルコンピュータなど多彩に発展した」と木内氏。しかし、「IT環境のパラダイムシフトの始まりは1990年代のインターネットが引き金だ」と続ける。木内氏曰く「2000年代はインターネットベースのオープン化、インフラ化が進んだ時代」で、2010年代はクラウドコンピューティングの概念と実現が本格化するなど、IT環境はサービス中心の時代に向かうことが必至とされている。

一方、経営とITの関係を見た場合、ITによる経営改革は本質ではないというのが木内氏の見方だ。というのも、「経営革新はコンピュータ時代以前からあるもの。革新・改革だけならITは要らないはず」と木内氏。しかし、実態はITに対する的外れの過剰な期待がERPの導入の失敗などを招いており、「ITで経営改革や業務改革をするというのは本質的な間違えだ」と指摘する。ただし、他方では、IT環境がなければ経営や事業が成り立たないのは事実だ。木内氏は「この10年でITは単なる道具ではなく、経営のインフラになった」と総括する。

そんな中、企業における情報システム部門に求められるようになったのは、経営改革部門としての役割だ。ところがこれに対して経済産業省の調査によると、7割の企業が両者の部門間の壁を乗り越えられないと答えているのが実態だと木内氏は説明する。さらに昨今では、システム部門のアウトソーシングが一般的になり、部門間連携から企業間連携へと新たな壁が築かれることになる。しかし、前述のとおり、情報システム環境のトレンドにも多大な変化が見られ、ベンダとユーザー企業間のパートナーシップの関係も改められなければならないと木内氏は次のように主張する。「メインフレーム時代には、独自環境に依存するがゆえのベンダとユーザー企業のいわば"蜜月"の関係が支配していた。しかし、オープンシステム時代のこれからは一括請負型から部分的な委任や請負体制に変わり、ベンダとの親密関係は希薄化し、コスト中心の競争で、責任やリスク分担などがより明確化されなければならない」。

こうしたベンダとユーザー企業のパートナーシップの課題やあり方を議論することを目的に、経済産業省が先進的IT経営実践企業のCIOを集めて2007年11月に設置したのが「CIO戦略フォーラム」だ。同フォーラムには木内氏も参加しているが、「パートナーシップ構築の阻害要因の抽出や分析、課題解決への議論のために、ユーザー企業とベンダが一堂に会する機会」との評価を語った。

木内氏によると、同フォーラムでは課題と共通認識が整理されたという。まず第1が「要件未確定問題」、これには発注段階で要件を確定することが難しいベンダと発注者側の責任範囲が不明確であることや、ベンダよって用語が異なるなどの問題点が含まれている。そして2点目は、未確定要件のため見積もりが難しいことや、費用算出に関する業界標準の不在などに関する「開発費用の不透明」、そのほかには開発体制や工程管理状況がユーザー側に開示されないことを指摘する「不透明な開発工程」「契約問題」「品質保証」「対等ではない関係」などが挙げられた。

一方、こうした課題の改善策として、同フォーラムではパートナーシップの基本スタンスが策定されたとのことだ。それによると、パートナーシップ構築構築のためには"ユーザーがリスクを負う、負えないリスクはコストに反映される"という認識を持つことが前提となり、その上でベンダとユーザー企業の相互努力により、リスク低減のための方策を検討していくことが必要で、そのためにはリスクの可視化と共有化が提言されている。

最後に木内氏は、発注企業側から見た良好なパートナーシップ構築について「甘えや依存体質を根絶し、ユーザーが開発リスクを取り、自らの手に負えなければ第三者を活用することも必要。仕様未確定のままで曖昧な契約はせず、運用状況を開発会社にフィードバックするなど、ベンダ側から見て核心を突いてくる"目利きの客"になることが重要」と助言を語った。