OracleのSun買収について「これもまた変革」と富士通 代表取締役社長 野副州旦氏

OracleのSun Microsystems買収発表を受けて、これまでパートナーだった企業との関係は変化するのか。日本の大手ITベンダはSIerであると同時にサーバ製品や関連ソフトウェアも抱える総合ベンダであり、20 - 30年来の協業パートナーだった企業との突然の関係の変化にとまどいを覚えたことだろう。しかもそれが、買収された企業と密な協力関係にあったベンダであればなおさらだ。

Oracle OpenWorld(OOW) Tokyo 2009開催2日目にあたる23日、基調講演のステージに立った富士通 代表取締役社長 野副州旦氏もそうした複雑な心境を抱いた1人だろう。同氏はステージで開口一番「変革と連呼している立場ではあるが、例の買収の話もまた変革なのかもしれない。買収の話題については、"あまり話すな" と口止めされていることもあるので、このあたりで止めておきたい」と自身の感想を述べている。野副氏は「富士通にもDB製品はあるが、社内にはOracleのファンが多い。世界規模で500億円のビジネスを展開しており、そうやっていろいろうまくやってきた関係だ」ともコメントし、ある意味で変わる部分もあるが、今後も変わらない関係があることを強調している。

同氏がたびたび口にした"変革"というキーワードだが、これは自身の変革を意味している。整理整頓、選択と集中で事業を再構築し、「Think Global」をキーワードに世界展開に向けた社内体制を整備していく。同社が4月1日に実施した独Siemensとのジョイントベンチャー「Fujitsu Siemens Computers」の完全子会社化、そして同社の「Fujitsu Technology Solutions」への社名変更という一連の流れは、世界攻略の一環である。ここまでの話題は、野副氏が昨年2008年に富士通社長に就任してから発信してきたメッセージと一貫している。

富士通が掲げる3つの"変革"

海外展開をにらんで社内体制も刷新。これまで拠点ごとに存在していた縦割りシステムを1つの組織に一本化、グローバル化と題して拠点と体制を一本化する

野副氏によれば相当な議論があったという富士通シーメンスの完全子会社化。社名も4月から「Fujitsu Siemens Computers → Fujitsu Technology Solutions」と改名し、富士通の海外展開拠点の中心として位置付ける

興味深いのは同社が近年推進している自身のビジネス体制の変革だ。まず同社は2007年から「フィールド・イノベーター」と呼ばれる現場の業務に精通したプロフェッショナルを社内の生え抜きから集め、その人数を段階的に増やし続けている。これは「企画中心で顧客視点ではなかったシステム構築」、つまり「家は建てるけど自身では住まないので本当のニーズが組み込めない」という事態を解決し、システムの作りっぱなしを防ぐ狙いがある。こうしてフィールド・イノベーターによるシステム構築事業者、つまりサービスとプロダクトのFIerを目指すというのが同社の目標となる。Oracleをはじめ、海外の企業は組織の強化にM&Aを活用する例が多いが、果たして富士通も同じことが可能なのかという意見がある。こうした資金を現場のプロフェッショナル育成につぎ込む、という戦略もここには込められている。

現場を知るプロフェッショナル「フィールド・イノベーター」による顧客視点の末永く使ってもらえるシステムを構築するFIer企業を目指す

こうした変革は自身のIT基幹システムにも反映されている。たとえば同社では、25年間にわたって段階的な拡張を続けてきた受発注システムを抱えている。拡張に次ぐ拡張で肥大化したシステムはもはや簡単に手直しできるレベルのものではなく、一種の巨大なレガシーシステムとなってしまった。「ITシステムによる変革を訴える企業が自身のITシステムの変革さえ行えないのであれば説得力がない」という考えの下、2年前に50 - 60億円の資金を投入してSAP CRMによるシステム再構築を行った。結果としてプロジェクトは、周辺システムとインタフェースの両方の20分の1以下の削減に成功した。社長直下で1人の担当者に一任するスタイルで、担当者の支援と忍耐が最終的なプロジェクト成功の鍵になったという。

変革を訴えるIT企業が自身のITシステムの変革さえできないのであれば説得力がない。SAP CRMを活用してレガシーシステムの簡略化と刷新に成功。この経験を顧客にフィードバックしていく

大規模なシステム再構築を経たことで、同社のシステムにおける問題点がいくつか見えてきた。その1つが各部署ごとに分散して存在していた大量のデータで、項目も不整合なために一本化できず、しかもアクセスが非常に難しいという問題だ。これらをすべて再構築することは難しいため、いったんデータと処理を分離、必要に応じてタグ付けを行うことで項目の追加も可能になり、さらに横断的な高速検索も可能になったことで、データ分散の問題をクリアした。このプロジェクトのゴールの1つは、顧客にシステム構築のノウハウをフィードバックするためのリファレンスモデルを作ることにあった。SIerが単にパッケージを導入して「システム構築しました」というのでは意味はなく、さまざまな問題を洗い出してテストケースを作り上げる。このシステム(FOCS)の再構築ノウハウは、そのまま同社の次世代ERP提案ソリューションとなっている。

富士通の次のステップは、こうして得た数々の経験をFSC完全子会社化にみられる海外展開の布石に役立てることだ。「No Longer Japan Centric」と野副氏がアピールするように、日本以外での展開も視野に入れている。Oracleとの協業体制も、こうしたなかでより密接になっていくというのが同氏の意見だ。また野副氏は、今後のサーバ市場の主戦場が「IAサーバ」に移っていくと予測しており、ここで勝てる体制に早急に移行する必要性を強調する。

システム刷新の中で見えてきた情報システム構築の課題。あまりにも個別のデータが多く、項目も不整合なため、思ったようにデータが扱えない

情報システムで陥りがちな罠の1つ。帳票を出力しさえすれば可視化ができたと勘違いしてしまうことが多いが、実際にそのデータが理解して使えるものでなければ意味がない