小田急電鉄、Oracle EBSをチョイス
神奈川の地方私鉄である小田急電鉄は、首都圏に住む者にとってなじみの多い鉄道のひとつ。小田急ロマンスカーのファンも少なくない。そして小田急は鉄道事業のみならず、多種多様な業務を展開しているグループ企業でもある。鉄道やバス・タクシー業務に代表される「ドアツードアドメイン」、小田急百貨店やホテルに代表される「ライフスタイルドメイン」、小田急不動産や小田急ハウジングに代表される「リビングスペースドメイン」という3つの性格の異なるドメインをベースとして事業を推進している。
同社も他社の例に漏れず、2002年ごろから競争激化や情報開示の迅速化、国際会計基準への準拠、連結決算重視といった状況にさらされるようになり、対応を迫られるようになる。状況を調べてみると、再入力や重複といった無駄が多く、決算確定に15営業日かかっていたり、財務会計と管理会計の連携が悪かったり、システムは昭和40年からの継ぎはぎで全容の把握ができずに保守も困難、という状況に陥っていたという。そこで、改善プロジェクトのゴールを月次決算第5営業日に確定すること、営業のスリム化と有益な経営情報の提供を目指し、業務とシステムの改善に取り組んだ。
システム選定では、パッケージ市場における実績やサポート体制の調査をベースに1次評価を実施して6社から2社へ対象を絞り込み、2次評価では適合性評価基準や評価と検討から2社を1社に絞り込み、Oracleのプロダクトを採用することにしたという。民鉄数社ですでにOracleを採用していたという実績も大きかったようだ。プロジェクトは1年と定めて導入を実施、資材システムはすでにオープン化していたが、これに合わせてOracle EBSを使うように変更したという。
親会社の理論は押し付けられない - グループ企業に配慮
小田急電鉄でのOracle BES採用後は、グループ企業へもこれを適用していくことになるのだが、これを全面的に支援したのが2002年に設立された小田急フィナンシャルセンターだ。小田急フィナンシャルセンターではすでに簡易パッケージが導入されていたのだが、これをOracle EBSを使うように変更し、グループ企業におけるOracle EBSへの移行を実施した。上流工程やサポートを担当するという位置づけで活動を始めたのだが、Oracle EBSを導入した小田急電鉄の事例紹介はここからが興味深い。
小田急電鉄 経営政策本部 IT推進部長 工藤純也氏は車掌からグループ企業のレストランまでさまざまな業務を経験。話し方からも細やかな配慮を感じさせる人物だが、工藤氏はこうしたシステムの導入にあたって、インフラ基盤などは親会社(小田急電鉄)が負担すると進めたことが本当によかったと説明する。現場の会計担当者はこれまでの会計業務に不満をもっていたわけではない。それなのに慣れている業務を変えるとなれば、不満が残るに決まっているし、さらに費用も負担しろ、では筋が通らないからだ。親会社の論理を押しつけるとしこりが残るため、顧客や株主重視の姿勢がこうした結果を生んだという発想を大切にしつつ、グループ企業には押し付けた印象を与えないよう、配慮したとのことだ。
実際にグループ企業への適用は、各社のシステム更新時に合わせて同時に実施する形式をとった。結局のところ、従来のシステムは2003年までの稼働、簡易パッケージは2005年までの稼働、Oracle EBSは2003年から稼働し、2006年にはグループ企業も一気にOracle EBSへ移行している。さまざまな業種があるため適用するのが難しいケースもあったという。また目的は理解しているといってもやはりシステム変更に伴う不満が生じるのは仕方がないため、時間をかけてゆっくり解決していったそうだ。いわゆる「ノミュニケーション」もこうした場合には役に立ったとも語る。
ITシステムの長期化への対応を求める、現実に即した保守メニューも期待
新システムへの移行により、H/WおよびS/Wの共同利用と運用管理業務の一元化によるTCOの削減、財務と管理会計の一元化、決算の早期化、内部統制への対応、災害リスク(免振床、電源二重化など)への対応、ISO27001取得、円滑なコミュニケーション……などが実現できるようになったという。かわりに課題として、システムの統合で障害時の影響が広がったこと、ERP活用の限界なども見えてきたという。小田急電鉄では4月にも一度システム障害が発生しているが、システムを利用する企業が増えたことで仕分け量が増大し、繁忙期におけるパフォーマンスの劣化が問題になりはじめているという。また対応企業が増えたとこで保守運用レベルのサービスレベルが低下してきていることも、今後の課題として挙げられるそうだ。
小田急では今後の方針として、保守費用や購入費用などを鑑み、2009年8月に11.5.8から11.5.10へアップグレードを検討している。工藤氏は実際にOracle EBSを使っているユーザという視点から、「ITシステムのサイクルが長期化しているものの、ERPパッケージがそれに即していないのではないか」という苦言も呈していた。たとえば技術サポートやバージョンアップ製品の無期限サポートはいいものの、それでは税制の変更に対処できないし、一律のサポート費用も納得できないものということだ。サービスに見合った価格やメニューを考えてほしいと意見を述べ、さらに、長期的なライフサイクルに見合ったベンダの登場を期待したいと説明した。
ERPとして活用できる機能内で済む場合には問題がないが、そうではない場合に発生する開発案件や購入案件は、適用性やコストの面で導入が困難なため、現在では採用を見送っているという。今後はそういった面での対応を期待したいとしている。