Oracle OpenWorld (OOW) Tokyo 2009が東京国際フォーラムで4月22日 - 24日の日程で開催されている。開催初日の22日のオープニングキーノートには日本オラクルCEO兼代表執行役社長 遠藤隆雄氏と米Oracleインダストリービジネス部門(IBU)担当シニアバイスプレジデントSonny Singh氏が登場し、昨今の業界をとりまく事情と今後の戦略について説明を行った。
困難な時代だからこそのIT投資
キーノート冒頭で遠藤氏は「なぜいまのような経済情勢で(このような大規模な)イベントを開催するのか? こうしたほうがOracleらしいという意見もあるが、なによりこうした時代だからこそ必要なのではないか」と挨拶する。不況下で企業はコスト削減に向かい、投資に対して慎重な姿勢を見せつつあるが、適切なIT投資こそが次のステップでの飛躍になるというのが同氏の意見だ。
遠藤氏は続けて「日本は元来より現場レベルでの業務改善を得意としており、これが強みとなっている。だがさらなる競争力強化のためには、トップのマネジメントそのものを改善する必要が出てくる。そうした取り組みを助けるのがITシステムとそれらへの投資だ。イベントではOracleによる一方的な情報発信ではなく、ユーザー自身が自ら積極的に参加して意見を表明し、ぜひ経営改善に活用してほしい」と述べ、今回のOOWのテーマである「Your. Open. World.」に沿った形でメッセージを発信している。
続いて登場したSingh氏は近年Oracleが掲げているキーワード「Complete」「Open」「Integrated」を紹介し、同社の買収戦略や製品に対するスタンスについて説明した。Completeとは、顧客が必要とするすべての機能やコンポーネントをソリューションの形で包括的に提供できる仕組みだ。ソリューションは業界別に存在するが、これを自社の製品のみですべて賄えるのがOracleの強みであり、それを実現したのが何年にもわたって実施してきた何十もの企業買収だ。ソリューションはもちろんOracleだけでなくマルチベンダー環境にも対応しており、自由に組み合わせて利用できる。それを実現するのがOpenのキーワードに代表されるオープンスタンダードへの準拠である。プロプライエタリからの脱出が、結果的に将来的な投資保護にもつながるというスタンスだ。製品の組み合わせにおいてはOracle Fusion Middleが活用される。製品の組み合わせを1つのパッケージにまとめて目的に沿ったシステム構築を実現するのがApplication Integrated Architecture (AIA)であり、AIAを利用することで簡単に低コストでシステムを導入できる。これがIntegratedにおけるメリットとなる。
Oracleの3つの戦略「Complete」「Open」「Integrated」。業界別に最適化された完全なソリューションを提供し、かつオープンスタンダードに基づくことで顧客の投資資産を保護する |
Oracleがこれまでに買収した企業群。これらはみな、Complete (完全)なソリューションを提供するためのベースとなっている |
Completeなソリューションの例。通信業界向けソリューションで2004年当時は基本的なERPレイヤーのみしか提供できなかったものが、数々の買収や技術開発を経て細かい領域までまんべんなくカバーできるようになっている。2番目のスライドはライバルSAPの現在の状況との比較 |
このような形で用意されるソリューションをいかに活用するかが重要になる。前述のように金融危機に端を発する経済低迷のなか、ユーザー企業は投資に対して慎重になりつつある。だがSingh氏は「こうした時期は企業のランキングが入れ替わり、明暗がはっきり分かれる傾向がある。IT投資の削減だけでなく、適切な分野に効率的に投資を行うことでより効果を得ることができる場合もある。効果的な投資で低迷期に一歩秀でて、後の飛躍につながる」と意見を述べている。IT投資に再び力を入れ始めたバラク・オバマ米大統領のコメントを引用し、つぎなるステップを模索するよう日本のユーザーに訴える。
蓄積したノウハウを顧客にフィードバック
IT投資による効率化の実現で一番説得力を持つのが事例だ。Singh氏はここで、パートナーでもあるHewlett-Packard(HP)、インドの自動車メーカーTata、米銀行大手のWells Fargo、米航空会社のAlaska AirlinesのOracle Applications活用例を紹介している。HPはCRM、TataはSCM(Supply Chain Management)、Wells FargoはHCM(Human Capital Management)の事例だが、興味深いのはAlaska Airlinesのソリューションだ。同社は顧客向けロイヤリティプログラム(例えばマイレージプログラムなど)の提供にOracleを利用しているが、iPhone向けのアプリを用意して情報提供のほか、キャンペーン告知、購買システムなど、一種のコミュニケーションツールのような使い方をしている。iPhone関連ソリューションは同社以外にもさまざまなケースが用意されており、トレンドに乗った形でサービス構築に利用できるようになっている。
米西海岸を中心に国内線網を展開している米Alaska Airlinesの顧客ロイヤリティプログラムに導入されているOracleのソリューション。iPhone向けアプリケーションの提供で顧客への情報提供やコミュニケーションを実現する |
既存の投資を保護するApplications Unlimited。自身が利用する製品がOracleに買収されたとしても、継続してアップデートの提供や機能強化が行われる。将来的にはFusion Middlewareを統合した次世代バージョンへとアップグレードパスが提供されることになる |
Singh氏に続いては、事例紹介でも登場した日本ヒューレット・パッカードの代表取締役 社長執行役員 小出伸一氏が登壇した。同氏はスピーチ冒頭で、OracleがSunを買収した件について「よく(OOWのような場で)スピーチする気になるな」と知り合いから冗談めかして言われたエピソードを紹介している。30年来という長年のパートナーであり、最近ではExadataとDB Machineの開発・販売という密な関係にある両社だが、1つの買収を経て「昨日の友は今日の敵」になってしまった。だが小出氏によれば依然としてOracleの動作プラットフォームとしてはHPのシェアが大きく、サーバ市場のライバルでこそあれ、今後も提携関係は続いていくことになりそうだ。
小出氏の話のテーマはIT投資と経営改善だ。「医者の不養生」とは言われるが、経営改善をうたうITベンダ自身が経営改善を実現できていないのであれば説得力がない。HPは2001年のCompaq買収以降、PCやプリンタなどコンシューマ市場を中心にビジネス戦略を立案してきた。だがビジネス分野で後手にまわったことがIBMやDellなどライバルのリードを許す結果となり、長い低迷の時期を経験することになった。同社は2005年にNCRからスカウトしてきたMark Hurd氏をCEOに据え、経営改革に乗り出した。コスト削減を中心にした改善策は結果的に成功し、売上ベースで10%、利益率で30%超の大幅アップを実現、株価も回復してBusinessWeekが選ぶ最も革新的な企業トップ50の7位に選ばれている。