東京都交通局は、既報の通り電磁誘導によりケーブルを接続することなく充電を行う「非接触給電ハイブリッドバス」の営業運行を開始した。本レポートでは、運行に先立ち行われた出発式および報道関係者向けの見学会の様子を報告する。

営業運行で使用される「非接触給電ハイブリッドバス」

出発式で関係者が挨拶

同式典は、国土交通省の主催により運行の起終点となる晴海埠頭の客船ターミナルで行われたもので、交通安全研究所、日野自動車、東京都交通局の関係者が出席した。また、運行期間中に実施される国際オリンピック委員会(IOC)による開催立候補都市訪問において同バスが紹介される予定のため、東京都 東京オリンピック・パラリンピック招致本部の出席もあった。

関係者によるテープカット。左から日野自動車の白井氏、交通安全環境研究所の大橋氏、国土交通省の内藤氏、東京都交通局の金子氏、東京都の松田氏

関係者の挨拶では、"次世代低公害車開発・実用化促進プロジェクト(EFV21)"事業を実施する国土交通省 自動車交通局 技術安全部長の内藤政彦氏が「海外の方も多く訪れる東京で運行を行うことにより、日本の環境対策車のレベルを海外の方へも広くアピールしたいと思います」と東京都で運行試験を行う意義を語り、「環境性能の高いバスやトラックを、一日も早く実用化したいと思います」と述べた。次に、運行試験のデータ収集を行う交通安全環境研究所 理事長の大橋徹郎氏は「CO2排出の主要を占める自動車の環境対策は、大きな課題と考えています。実証期間内で有意義なデータを収集してお役に立てたいと思います」とした。

続いて、同バスの運行にあたる東京都交通局 局長の金子正一郎氏は「意義あるプロジェクトへの参加は名誉です。東京オリンピック・パラリンピック誘致の一助になればと考えています」とし、同バスの製作を行った日野自動車 代表取締役社長の白井芳夫氏は「大都市や国立公園での環境対策にディーゼルハイブリッド車は最適と考えています。実用化に向けて、品質の向上と価格の低減を目指します」と語った。最後に、東京都 東京オリンピック・パラリンピック招致本部 次長の松田二郎氏が「2016年のオリンピックは、カーボンマイナスを目指しています。IOC委員に対しても説得力のあるプレゼンテーションができると考えています」と締めくくった。

バスの各部を見学

式典では関係者への車両説明なども行われた。同バスに搭載された非接触給電ハイブリッドシステムは、電磁誘導により車両側のバッテリーに急速充電を行うもので、充電は非接触で行われるためケーブルなどの接続を必要としない。プリウス30台分のリチウムバッテリーを搭載しているという。

バスを前から見たところ。ナンバーはオリンピックを意識した「20-16」

屋根の上の「EV-Hybrid」と書かれた部分にリチウムイオンバッテリーが搭載される。定格容量は80Ah/41.4kWh

エンジンルーム。モーターはエンジンの前部に位置するため見ることができない。モーターの最大出力は180kW。ディーゼルエンジンの排気量は4,728cc

運転席に設置された電気走行(EV)とハイブリッド走行(HV)の切替スイッチ

給電施設で充電の様子を見学

式典後、東京都交通局深川自動車営業所に設置された給電施設の見学のため同営業所へ移動した。今回の実証試験は晴海埠頭~東京駅丸の内南口で運行されるが、運行時の給電も同施設で行う。同バスの電気による市街地での走行距離は約15kmとのことで、1往復毎に充電することになる。

式典会場から深川自動車営業所に向けて出発するバス

非接触給電の給電コイル(一次コイル)は、路面や駐車場など地面に埋め込まれることになるが、今回は実証試験が2週間のためバスがレールの上に乗る方式とされたようだ。このため、給電装置が床に置かれた状態となっている。バスは定位置に停車後、車両下部のフレームに設置された受電コイル(二次コイル)と給電コイルの距離を近づけるために車高を下げる。距離が近いほど給電効率が高くなり、充電時間も短くなるとのこと。

バスが乗るレールの間に給電コイルが置かれている

バスが定位置に着いた状態

バスと給電コイルの位置関係。国土交通省の文字の下方に位置する

給電中の状態。車両下の黒い丸い部分が受電コイル

給電設備。電源の定格出力は70kW

車内に設置されたモニター。エネルギーの流れなどを表示する

同営業所から晴海埠頭へ戻る際には、試乗する機会があった。通常のバスのようなエンジン音や振動は無いが、加速時や減速時など走行音はそれなりに発生する。停車中は大排気量エンジン特有の振動がないため、振動で気持ちが悪くなる体質の筆者にとっては快適であった。

4月27日までの間、土日を除き都営バス「都05系統(晴海埠頭~東京駅丸の内南口)」で各日2往復運行(晴海埠頭発10:43と13:42のバス)予定なので、興味のある方はこの機会に乗車してみてはいかがだろうか。