4月10日、マルチメディア推進フォーラムの主催により、フォーラム「人体近傍電界通信の動向と新市場発掘に向けたアプリケーション」が開催された。技術の新しさに加え、"センセーショナル"な名称から、注目を集めている「人体通信」だが、まだ本格普及には至っていない。同フォーラムでは、NTTマイクロシステムインテグレーション研究所 第一推進プロジェクト部長を務める門勇一氏が、人体通信をこれから普及させていくには「どのような課題をどのようにして解決すべきかについて講演を行ったので、紹介しよう。
門氏は初めに、「人体通信とは、人体表面もしくは近傍の空間を市の号の伝送媒体とする通信、人が触れることで成立する通信」と説明した。近傍の目安は10cm程度だという。つまり、手足が届く範囲のネットワーク(Human Area Network)というわけだ。
門氏は、「人体通信につい懐疑的な意見もあるが、触れる・握るといった人間にとった自然な動作によって情報が入手でき、また、触れることで"つながり"を直感できるこの技術は、これからの世の中に必要な技術」と、人体通信のメリットをアピールした。
人体通信の方式は2種類ある。「電界方式」は、人体の表面に誘起する電界を変調して情報を伝達する。30MHz以下のキャリア周波数を用いるので、人体を導体と見なせる。同方式では、人が直接トランシーバの電極に触れる必要はなく、体の表面に加えて衣服や靴底を通しても情報を伝達することが可能だ。同氏が属するNTTでは、この方式を採用している。同方式の商品化は、NTTエレクトロニクスが2008年4月に行っている(商品名は「フィルモ」)。
もう1つの「電流方式」は、人体に微弱の電流を流して、その電流を変調することで情報を伝達する。同方式では、人がトランシーバの電極に触れるため、人体を電流が流れる。同方式の商品化は、パナソニック電工が「タッチ通信システム」として2004年に行っている。
門氏は「RedTacton」という人体通信技術に取り組んでいるが、このRedTactonが2006年、米国の技術誌「IEEE Spectrum」で"負け組の技術"として紹介されたことがあるという。「周囲からもあれこれ言われて、ショックだった」と同氏。
同誌が、人体通信が抱える技術的な課題としていたのが、「キラーアプリケーションの不在」、「コストが不明」、「安定動作」、「安全性」の4点である。現在、業界では人体通信の普及に向けてこの4つの課題に取り組んでいるそうだ。