技評さん、"メタボプレス"じゃなかったの?

「今度ウチで"メタボプレス"的な本を作るんですよ」と、技術評論社の方から聞いたのが昨年の秋ごろだっただろうか。その時点では詳細は未定だったが、メタボリック症候群への対策をまとめた一冊にする予定だとのことだった。それから半年、Life Hacks Press seriesとして出版されたのが今回紹介する『ForzaVita vol.1』である("フォルツァ・ヴィータ"と読む。イタリア語らしい)。冒頭には次のように注意書きがしてある。

本誌で紹介する内容は、これまで運動する習慣のなかった方がいきなり始めるのは危険な場合もある可能性がありますので、実践前には血圧を計って体調に十分注意し、体調が優れない場合は中止してください。

あれ、メタボ対策本じゃなかったの? 目次を見てもなかなかハードそうな内容だ。巻頭特集が「体脂肪を燃やす」となっているように、たしかにメタボ対策を強く意識して作られた本ではある。とはいえ、本誌の内容をちゃんと実践すれば、メタボからの脱出を通り越して鍛え上げられたスポーツマンができ上がりそうだ。腹筋くらいは簡単に割れるだろう。

ちなみに筆者は自転車と徒歩旅行(1日30km以上歩く)などを趣味にしていて、トレッキング程度だが山にも登る。走ることについてはフルマラソンも含めて年に何度かは大会に出場しており、距離が50kmを超えるウルトラマラソン(ラン&ウォーク)にも参加する。最近ではクライミングジムにも通い始めた。そんな運動大好き人間である筆者でも思わず唸らされた充実した内容を、本稿では紹介していきたい。

サブタイトルは「忙しいビジネスパーソンの体脂肪燃焼メソッド」- しかしその実態は……体脂肪燃焼どころか腹筋が割れます!

ITを活用した体脂肪燃焼術

巻頭特集は「体脂肪を燃やす ケータイ/iPod/Google活用術」となっており、各種IT機器を活用して効率良くトレーニングを実践する方法が紹介されている。

第1章はauが提供する「Run&Walk」を利用して日々のトレーニングの結果を見える化するというもの。Run&WalkはauケータイのGPS機能を利用してウォーキングやランニング、または自転車で移動した軌跡を記録するサービス。PCと連携することでトレーニング結果を見える化できる他、音声ガイドによってペースコントロールなどをサポートする「パーソナルトレーナー」機能なども利用できる。

第2章ではAppleとNikeが共同開発した「Nike+iPod」を活用してトレーニングを行う方法が紹介されている。トレーニング結果の記録や見える化、トレーナー機能が用意されている点はRun&Walkと同様だが、こちらはGPSではなくiPodに取り付ける受信機と靴に取り付けるセンサーによって走った距離を記録するというもの。筆者も日々のジョギングに利用しているが、専用サイトであるnikeplus.comで世界中のランナーと競い合えるなど、さまざまな機能がトレーニングの励みになる。

第3章は「自転車 + IT」ということで、自転車ライフをITで彩るためのさまざまな手段を紹介している。自転車というのは体脂肪を燃やすのにはぴったりの運動らしい。特に体重がある人の場合、マラソンだと膝にかかる負担が大きく怪我をしやすいが、自転車では(正しい姿勢で乗れば)そのような心配は少ない。スポーツタイプの自転車は少々値が張るが、トレーニング以上に大人の趣味として新しい楽しみを見つけさせてくれるものであり、先行投資するだけの価値がある。

この章ではルートのナビゲーションや記録のためのGPS機器について、目的に応じた選び方からルートの作り方、PCとの連携のさせ方などが詳しく解説されている。また、心拍計を使ったペース管理も扱っている。心拍数の記録と分析は自転車に限らずあらゆる有酸素運動で有効である。心臓は嘘をつかないので、その日の運動強度が確実に把握できるからだ。

その他、巻頭特集では上記のいずれにおいてもGoogle Mapsと連携させて走行ルートを地図上に表示する方法が紹介されている。自分が歩いたり走ったりしたルートを、後からストリートビューで眺めるというのもなかなか楽しい。

食べても太らない体づくり

特集1は「スロートレーニングで"食べても太らない体"つくる」。実は筆者が一番気になったのがこの特集だ。メタボは気になっても、おいしいものはたくさん食べたい - そんな贅沢が許されるのだろうか。まずポイントは、筋肉をつけると太りにくくなるということ。そのために手軽に始められる筋力トレーニング方法としておすすめなのが「スロートレーニング」なのだという。

スロートレーニングとは、筋肉を意識的に低酸素状態にして動かすことで、通常よりも軽い負荷で効果を上げることができるトレーニング方法だという。この特集では、なぜ筋肉をつけると太りにくいのか、なぜスロートレーニングが効果的なのかを理論的に説明した上で、実際のトレーニング方法を写真付きで詳しく解説している。

「筋トレ」というとどうしもきついイメージが付きまとうが、このスロートレーニングならば空いた時間にすぐにでも始められそうだ。

すぐに始められるトレーニング方法を紹介

自転車通勤は楽しい!

特集2は「はじめよう!自転車通勤」ということで、自転車通勤を始めるためのいろはを紹介している。自転車自体は身近な乗り物だが、それで長距離を通勤するとなると意外とわからないことが多いと思う。途中で故障したらどうするかや、事故に遭った場合の扱いなど不安なこともあるだろうし、交通ルールなどに関する誤解も多い(注)。

本誌では自転車通勤のメリットから準備するべきこと、どんな店で何を買えばいいのか、守るべきルールとマナー、長続きさせるためのコツ、そのすべてのノウハウがここに詰まっている。初心者でも気負うことなく始められるよう配慮されており、自転車通勤の第1歩のための読み物としてお勧めできる。

ちなみに、筆者も一時期片道25kmを自転車で通勤していたことがある。そのとき心がけていたのはやはり「無理をしない」こと。2日自転車で行って、次の1日は電車くらいの気持ちでいいのである。疲れたら途中の駅で電車に乗ったっていいのだ。自転車通勤を通じて、より多くの人に自転車に乗る楽しさを実感してもらえたらうれしいと思う。

実際、この特集の説明にも労災に関する記述に誤りがある。会社に無許可で自転車通勤をしても、それが合理的な手段として認められればちゃんと労災として扱われる(もちろん寄り道をした場合は除く)。社内規定は労災の認定には影響しないのだ。もっとも会社の懲戒規定に該当することは考えられるので、根気強く交渉して許可をもらうのに越したことはない。

自転車特集、力入ってます!

ストレス発散にもなる格闘技系フィットネス

特集3は「格闘技系エアロ入門」。格闘技と聞くとちょっと身構えてしまう人も多いだろうが、ここで紹介されているのはフィットネスプログラムである「BODYCOMBAT」と共栄ジムによるボクシングフィットネス「シェイプボクシング」の2つ。実際に殴り合うのではなく、あくまでもフィットネスを目的に設計されたプログラムだ。

ここでは両プログラムの要点や代表的な動き、これから始めるためのポイントなどが紹介されている。しかしフィットネスプログラムとは言っても動きはかなり激しそうだ。ここまでやれば、もうメタボなんて言われることはないだろう。

このように本誌では「体脂肪の燃焼」という観点から、さまざまなトレーニング/エクササイズの方法を紹介している。特徴的なのは、GPSなどのIT機器をメニューの中に効果的に採り入れている点だ。そのためガジェット好きな読者にとっても楽しめる内容となっている。

とはいえ、いざ始めてみてもどうしても長くは続けられないという人も多いことだろう。そういう読者におすすめなのが特別企画「マインドマップとGTDで実践!メタボ対策」である。筆者にもマインドマップとメタボ対策がどう結び付くのか疑問だったが、読んでみて納得。目標達成のための道筋の整理やモチベーションアップには思考方法から変えていこうということだ。

それでもまだ……という人は60ページからの「低カロリー発泡酒飲み比べ」を見よう。え? 発泡酒じゃなくてビールがいい? それなら「食べても太らない体づくり」です;-)

いまやマインドマップはメタボ対策の世界にも進出

発泡酒飲み比べ……やせたいなら飲まなきゃいいとも思うのだが

「最近運動不足だなあ」と感じている方は、本誌を片手に体を動かしてみてはいかがだろうか。メタボとは無縁の世界が待っているに違いない。ちょうど陽射しも長くなり、朝晩もそれほど冷え込まなくなってきた。スポーツを始めるにはもってこいの季節だ。

ForzaVita vol. 01

技術評論社
2009年5月1日 発行
B5判 / 192ページ
ISBN978-4-7741-3820-6
定価 1,580円 + 税