理化学研究所は4月10日、女性ホルモン「エストロゲン」がオスの記憶障害を改善する分子メカニズムの一部を解明したと発表した。同研究所の脳科学総合研究センター山田研究ユニットの山田真久ユニットリーダーおよび北村尚士テクニカルスタッフを中心とするグループによる研究成果。
研究には特定の遺伝子を持たないマウス(遺伝子組み換えマウス)を利用した。遺伝子が欠けているために、このマウス(遺伝子欠損マウス)は特定の神経伝達物質(アセチルコリン)を取り込めずに脳の血液循環が悪化し、神経細胞が委縮し、記憶学習能力が低下する現象が生じる。ただし、この異常は遺伝子欠損マウスでもオスだけに起こり、メスだと、脳血液循環が悪化しない。
山田研究ユニットは、オスとメスで生じたこの差異が、女性ホルモンであるエストロゲンの作用によるものと考えた。すなわちエストロゲンが特定の神経伝達物質と同じ働きをすると仮定した。
そこで遺伝子欠損によって脳の血液循環が低下しているオスのマウスに、エストロゲンを投与。具体的には、エストロゲンのタブレットを外科手術によって皮下に埋め込んだ。タブレットからは一定量のエストロゲンが持続的に放出され、脳神経に到達する。エストロゲンを投与したマウスを3週間後に調べたところ、脳血管が拡張して循環機能が改善され、神経細胞の委縮が正常に戻るとともに、記憶学習能力が回復することを確認できたという。
なおエストロゲンが動脈硬化の改善に効くことは、以前から知られている。ただし男性の女性化や乳癌リスクなどの副作用があり、動脈硬化の治療にはエストロゲンは使われていない。今回の研究研究は、副作用の少ない脳機能改善薬の実現につながると期待される。