Analog Devices(ADI)は4月8日、同社の超音波受信機ICとして第3世代品となる8チャネル超音波受信機IC「AD9276」「AD9277」2製品を発表した。2製品ともにすでにサンプル出荷を開始しており、量産出荷は2009年6月からを予定している。また、1,000個受注時の単価は62.00ドルとなっている。

超音波受信機ICは主に医療分野の超音波診断装置などに用いられるデバイスで、心臓診断のための超音波ドップラー法などとして用いられる。ドップラー法には、カラードップラー、連続波(CW)ドップラー、パルス波(PW)ドップラー法などがあり、ドップラー効果を用いて動脈での乱流、2次的流れな増減と欠如、逆方向の流れなどの検査や静脈での呼吸による流れの変化、血流障害の測定などに用いられる。

CWドップラーとPWドップラーの概要

超音波ドップラー法による検査の概要

アナログ・デバイセズのインダストリアル&インフラストラクチャ・セグメント アシスタントディレクターである笹岡宏氏

ADIの日本法人であるアナログ・デバイセズのインダストリアル&インフラストラクチャ・セグメント アシスタントディレクターの笹岡宏氏は、「例えば米国における死亡と障害の主な原因としては"脳卒中""頚動脈閉塞""心臓病""腹部大動脈瘤(AAA)""抹消動脈障害"といったものであるが、いずれも血管や血流に伴う疾患が問題になっている」とし、血流のチェックを行うことでこうした疾患を未然に発見、予防することにつながるとした。

また、「緊急超音波として事故などの負傷を現場や緊急救命室(ER)などでの応急的検査や緊急の頭蓋内血管性疾患の診断や出産といった分野にも超音波ドップラー法は必要不可欠なものとなっている」(同)とその役割の重要性を語る。

米国における死亡と障害の主な原因

AD9276/9277が従来製品である「AD9272」「AD9273」と異なるのは、従来製品が同ICと位相シフタ付きクワッド・プログラマブルI/Q復調器「AD8339」を組み合わせる必要があったのに対し、同復調器の機能を統合、1チップ化することで性能の向上を図った点である。また、コンデンサ数などの減少およびチップ数の減少などによる基板面積の削減といった効果もあるほか、無駄な回路部分の削減およびCMOSプロセスの変更による低消費電力化を実現した。従来の2チップ構成時に比べ消費電力は約2/3に低減したほか、CWドップラーモードで信号を処理する場合、消費電力はチャネルあたり90mWという。

第2世代品のシグナルチェーン(左)と第3世代品のシグナルチェーン(右)

さらに、アクティブ終端を搭載し、入力ノイズ電流は1pA/V ̄Hz、チャネルあたりのノイズは0.83nV/V ̄Hzに抑えることに成功しているほか、プログラマブル位相回転機能搭載の集積I/Q復調回路により、ローノイズアンプ(LNA)出力は160dB/V ̄Hz(代表値)を超す出力ダイナミックレンジを提供することが可能だ。

パッケージは第2世代品と同様の大きさとのこと

AD9276は、8チャネルの可変ゲインアンプ(VGA)とLNA、アンチエイリアスフィルタ(AAF)、12ビット80MSpsのA/Dコンバータ(ADC)で構成されている。一方のAD9277は、CGAやLNAなどは同等のものを使用しているが、ADCは14ビット50MSpsを搭載している。

AD9276(左)とAD9277(右)の各種スペック

なお、CWドップラーモードでは、各復調回路はSPIを介した16個の位相設定を個別にプログラミングすることが可能なほか、SPIレジスタに書き込むことにより超音波信号処理アーキテクチャを可能な限り最良のノイズ性能に最適化することも可能である。