女性の妊娠/出産に伴う産前産後休業と育児休業は、「男女雇用機会均等法」および「育児介護法」で規定され、雇用主は出産/育児を理由に不当な解雇等をしてはいけないことになっている。だが、厚生労働省が最近発表した調査で、ショッキングな実態が明らかになった。
同省のまとめによると、妊娠/出産等を理由に解雇等の不利益な取り扱いを受けたとして、2008年度に全国の労働局に相談が寄せられた件数は2月末までの時点で1,806件で、前年度の1,711件をすでに上回った。また、育児休業に関する不当な取り扱いへの相談は、前年の882件から1,107件に急増している。こうした状況を受け、同省は各都道府県の労働局長に対して適切な対応と取り組みを徹底する要望を通達したが、女性に関しては景気悪化の影響が"派遣切り"どころか、法律で守られているはずの正規雇用者までを脅かし、"育休切り"の実態を生み出していることが浮き彫りになった。
こうした状況からも、出産/育児というライフステージが就業を続ける女性にとって重大な犠牲を引き起こしていることが明らかだが、厚生労働省が発表した別の調査結果からは、「働きたくても働けない育児中女性」と「子どもを産みたくても産めないキャリア女性」の蔓延したジレンマの実態が浮き上がった。
同省が3月26日に発表した「平成20年版 働く女性の実情」によると、2008年の女性の労働力人口は前年より1万人減の2,762万人となり5年ぶりの減少。また、労働力率は5年ぶりに低下し、前年比0.1ポイント減の48.4%となった。こうした環境悪化の変化は、1985年に「男女雇用機会均等法」が施行して以降、社会への女性の進出が進みながらも景気の影響に左右されて引き起こされたものと考えられる。それを証拠に、完全失業率を見た場合、女性は前年より0.1%ポイント上昇の3.8%であったのに対し、男性の場合も同様に前年3.9%から4.1%に上昇している。
しかし、今回の調査で興味深いのは、「男女雇用機会均等法」制定時以降の15~64歳の有業率の推移だ。男性はこの20年余りの間ほぼ横ばいのまま推移しているのに対し、女性は、1987年の54.2%から2007年の61.7%と上昇。特に大卒以上の女性に関しては、20年間で62.6%から2007年の72.6%へと10ポイントも上昇している。雇用者数に関しても、男性が4年ぶりの減少となる14万人減の3,212万人となる一方、女性は15万人増の2,312万人で、6年連続増加の過去最多を記録しており、女性の場合は景気の影響を受けながらもそれを上回る勢いで社会進出が進んでいることが見てとれる。
ところがその一方で、こうした女性の社会進出は、必ずしも仕事と私生活の調和を意味する"ワークライフバランス"の実現とは結びついていないのも現状のようだ。一般に子育て世代と呼ばれる25 - 44歳の女性で現在就労していない女性に離職理由を訊ねた質問では「結婚・育児のため」と答えた割合は、大学・大学院卒業者で35.2%、高校・旧制中卒業者で28.7%と平均3割程度にも及んだ。また、女性の有業率と現在は無職だが就業を希望している割合を表す潜在的有業率の差は、30 - 44歳の間でもっとも大きな開きがあり、たとえば大卒・大学院卒の35 - 39歳では潜在的有業率が84.8%であるのに対して、有業率は65.2%に留まっている。加えて、就業を希望しながら求職活動をしていない人にその理由を尋ねた結果では、「育児や通学などのために仕事が続けられそうにない」と答えた割合が大学・大学院卒業者で44.2%。同世代で就労を希望しない女性のうちの66.4%はその理由に育児を挙げ、いずれの場合も多くの女性が出産・育児を理由に就労を断念せざるを得ない状況にあることが推測される結果となった。
一方、夫婦に尋ねた理想的な子どもの数の平均は、妻が大卒以上の場合で2.42人。これに対し、予定している子どもの数の平均は1.97人で、予定が理想を下回る結果となった。その理由については、経済的理由や高齢出産を懸念する声が高かったが、22.5%が「自分の仕事に差し支える」と答えており、2割を超える女性がキャリアを理由に出産・子育てを躊躇する傾向にあることもわかった。
こうした調査結果が示すように、女性の就業環境は雇用機会は平等になっても、結婚・子育てという女性特有のライフステージを克服するための環境そのものは20年前からあまり変わっていないようだ。しかしながら、今後超少子高齢化時代に突入するにあたり、女性の労働力は必要不可欠であり、キャリアの実現か家族形成かという二者択一で女性のライフスタイルが論じられる時代からの脱却が早期に求められる。そのために社会に求められる早急な課題は、二者の両立を実現する社会基盤の整備ということになるだろう。
社会基盤の整備以前に、電車でよく見るこんな風景が少なくなってほしいものである…… |
(イラスト ひのみえ)