厚生労働省は31日、医薬品のネット販売規制などについて議論する検討会の第3回会合を開いた。前回会合では、医薬品ネット販売について前向きな意見も出たが、今回は「この検討会を中止すべき」との意見も出た。だが、座長で北里大学名誉教授の井村伸正氏は「次回以降、ネットの安全性について突っ込んだ議論をしてほしい」と構成員らに要請した。
これまでの議論を踏まえて論点整理
2009年6月に施行される予定の厚生労働省の省令では、一般用医薬品のネット・通信販売に関して大幅に規制。だが、医薬品の販売方法について再度議論をするため、舛添要一厚労相の指示により、「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」が設置。2009年2月24日に第1回、3月12日に第2回会合が開かれた。
第3回となる今回は、これまでの議論を踏まえて整理した論点を事務局が提出。第1の論点として「薬局・店舗などでは医薬品の購入が困難な場合の対応方策」、第2の論点として「インターネットなどを通じた医薬品販売の在り方」が示され、それぞれについてさらに詳細に議論すべきテーマが提案された。
会合では、これらの論点の議論に入る前に、6人の構成員が提出した資料に基づいて意見を発表。
三木谷氏は「配置販売によるネットの代替は不可能」
楽天会長兼社長の三木谷浩史氏は、他の構成員がネット販売の代替案として示した「配置販売」や「購入代行」などについて、「これらの代替策で解決できるというのは矛盾があり、ネットを含めた通信販売の選択肢を提供することが不可欠」と主張。
離島である東京都御蔵島村の例を挙げ、「ネット販売がなくなると困ってしまう人が数多くいる。こうしたエンドユーザーを検討会に呼んで意見を聞いてほしい」と訴えた。
全国伝統薬連絡協議会の綾部隆一氏も、「薬局・薬店や配置販売業によって伝統薬購入の難しさがカバーできるという意見があるが、物理的にも機能的にも、代替対応は不可能」と配置などによる代替は難しいと強調した。
日本チェーンドラッグストア協会 副会長の小田兵馬氏は、今回の省令が「憲法が保証する営業の自由を奪い違憲である」などとする反対派の主張に対する意見書を提出。
「インターネットによる便利さが人の安全性に関する問題を超えるものとは思えない」とし、「違憲とするなら法廷の場で明らかにすべきであり、インターネットを新しい販売業としてルールを整備すべきとすれば、審議を国会に移すべき」と主張。「このいずれかの場合、検討会の議論は意味がなく、即刻中止もしくは廃止すべき」と述べた。
また、日本置き薬協会 常任理事長の足高慶宣氏は、「この検討会の議題が安全確保が第一であり、全ての国民に安全に医薬品が提供できるかという問題である以上、前回の会合における構成員の発言で供給体制については確保されていることが確認された」と主張。
「Eコマースについてはその安全性について議論が分かれており、『国民に医薬品を供給する体制はできている』という意見を覆す具体的な論拠を示さない限り、この検討会の意義はない」とし、「検討会の閉会を提議する」と述べた。
小田氏と足高氏の発言は、検討会そのものの意義を疑問視する意見で、第1回会合の議論が再燃する形となった。
一橋大学の松本教授「誰のための議論か明確化が必要」
これらの意見に関し、慶應義塾大学総合政策学部教授の国領二郎氏は、「安全性を確保するには、(1)このやり方がいいからこの通りやりなさい、(2)常に問題はあると認識して改善点を発見しながら改善していく、という二つの方法がある」と説明。
「食品の安全確保などにおいて、現在は2のやり方が主流になっており、必ず粗(あら)があるという前提に立って、医薬品販売のより安全な仕組みをどうやって作っていくか議論すべきではないか」と訴えた。
一橋大学大学院法学研究科教授の松本恒雄氏は、「議論が進んでいないのは、この検討会の議論が誰のためのものかが明確ではないからではないか」と問題提起。
「第1には国民の安全、第2はネット販売が禁止になると医薬品の入手が困難になる人、第3は医薬品のネット販売業者、の3つの異なった利益がある」と整理。
「第1の利益はこの検討会の前の検討会で議論してきた。第3の利益はここで議論するものではなく、第2の利益こそ、この検討会で議論すべきものではないか」と述べた。
これに対して、複数の構成員が「よくまとめてくれた」と発言。三木谷氏も松本氏の主張に沿う形で、「今まで使っていた薬を使えなくなるエンドユーザーの意見を聞くべきではないか」と述べた。
井村座長はこれらの意見を踏まえた上で、会合の最後に「次回以降、薬の入手で困っているエンドユーザーの意見を聞きたいと思っている」と発言。
「この検討会を中止すべきだという意見もあったが、もう少し続けさせてほしい」とし、「ネットの安全性について、前回提出してもらった資料などを基に突っ込んだ議論をしていきたい」と各構成員に要請した。
第4回会合以降は、今回事務局が提案した論点に基づきながら、消費者の声を聞いた上で議論をすることが予定されている。