リビング・サイエンス・ラボと市民科学研究室はこのほど、輸入食料品の運送距離の長さと環境負荷の関係を表す概念である、「フードマイレージ」に関するセミナーを開催した。講師を務めたのは、「市民NGO企業 大地を守る会」の広報グループ室長 大野由紀恵氏と、市民科学研究室代表兼リビング・サイエンス・ラボのコアメンバー上田昌文氏。セミナーによると、外国産ではなく国内産の食料品を選択することが、CO2の排出量削減につながる可能性があるという。
日本のフードマイレージは?
「フードマイレージ」とは、英国の消費者運動家ティム・ラングが1994年から提唱している、食料輸送の環境への負荷の大きさを表す概念。「生産地から食卓までの距離が短い食料を食べた方が、輸送に伴う環境への負荷が少ないであろう」という仮説を前提として考案され、「輸入量[t]×輸送距離[km]」として定義されている。単位は「tkm(トンキロメートル)」。
大野氏によると、日本の食料自給率(自国の生産量/自国の消費量)は「フランス、アメリカ、ドイツ、イギリス、韓国、日本」の中では低く、およそ40%。さらに、日本は運送距離の長い国(遠い国)からの輸入が多く、フードマイレージの値がフランス、アメリカ、ドイツ、イギリス、韓国はいずれも4,000億[tkm]以下であるのに対し、日本はおよそ9,000億[tkm]であったという(2001年農水省調べ)。
フードマイレージと環境負荷
しかしながら、前述の定義式で算出した値では、輸送による仕事量は測れるが、環境に与える負荷との関係は、直感的にわかりにくい。そこで、「大地を守る会」ではフードマイレージをCO2排出量で考える「poco(ポコ)」という単位を提唱しているという。同会の定義によると、1[poco]あたりのCO2量は100[g]。1[tkm]あたりのCO2排出量は、輸送手段によって異なるため、フードマイレージを「tkm」から「poco」へ換算するには、「該当輸送手段の1[tkm]あたりのCO2排出量[g]×N[tkm]÷100[g]」となる。
1[t]のものを1[km]運ぶときのCO2排出量 | |
---|---|
鉄道 | 21[g] |
船 | 38[g] |
トラック | 167[g] |
飛行機 | 1,510[g] |
「poco」で考えてみると、輸送手段の組み合わせによっては、必ずしも「輸送距離が長い方が環境負荷が大きくなる」わけではない(たとえば、1[t]のものをトラックで100[km]運ぶより、船で200[km]運んだ方が、91[poco]少なくなる)。しかしながら、輸入製品の場合、(日本においては)輸送手段の違いによる影響を輸送距離による影響が上回ることが多く、基本的には「輸送距離の長い輸入製品より、輸送距離の短い国内製品を消費するほうが、CO2排出による環境負荷は少なくなる」のだそうだ。
ちなみに、アメリカ・モンタナ州-東京間を小麦(パン1斤分)を運ぶ場合、フードマイレージはおよそ1.45[poco](=CO2排出量 145[g])、北海道-東京間だと、およそ0.35[poco](=CO2排出量 35g)となり、北海道産の小麦の方が環境負荷は小さいという。
国産ミネラルウォーターでCO2排出量を削減
同セミナーでは、開催日が3月22日の「世界水の日」に近かったこともあり、人間の生命維持に最も重要とされる「飲料水」のフードマイレージ「ウォーターマイレージ」にも焦点が当てられていた。「世界水の日」は、1992年に第47回国連総会本会議において決議され、水資源の保全・開発やアジェンダ21の勧告の実施に関して普及啓発活動を行うことが提唱されている日のこと。
日本ミネラルウォーター協会によると、2008年の日本のミネラルウォーターの消費量は約250万[kl]で、うち、国産が約200万[kl]、輸入が約50万[kl]。1988年から2008年までの21年間で、およそ28倍の消費量になっているという。
日本での消費量は増加傾向にはあるものの、この消費量は、欧米諸国と比較すると、およそ1/10程度であるといい、世界的に見ても、多いというわけではないのだそうだ。ただし、輸入製品のシェアは他国と比較して突出して多く、そのため、ウォーターマイレージの値は大きく、米国の約4倍になるのだという。
上田氏によると、2008年の日本の輸入ミネラルウォーターのウォーターマイレージは約99億[tkm]、国産は約5億[tkm]となり、輸入ミネラルウォーターは国産と比較して約20倍。また、CO2排出量に換算すると、輸入製品は国産の15倍以上になるという。そのため、輸入製品から国産製品に選択を変えることで、CO2の排出量を1/15以下に抑えることができる可能性があるとしている。
また、日本の水資源賦存量は年間約4,200億立方メートルあり、年間使用量はそのうちの約20%にとどまっているという。「輸入品ではなく、国産品を選択するようにすることで、環境負荷を大きく軽減できるのでは」(上田氏)とのこと。
しかしながら、食料品も飲料水も価格的な問題やブランドイメージが購買欲求に大きく関わっているといい、「環境に良い」という理由で国産志向へと消費者が移行していくかというと、そう簡単なことではないだろう。大野氏、上田氏の両氏とも「『環境に良いから』と口で言うのは簡単だが、問題は世間がその考えを受け入れてくれるかどうかで、それが一番難しい。まだ『フードマイレージ』の概念自体普及していないが、考えを普及させ、製品を選択する際に意識してもらうには、『国産を選ぶ』ことによる付加価値を、いかに打ち出していくかが課題だと思います」と締めくくった。