文化庁は25日、第28回文化審議会著作権分科会を開き、「日本版フェアユース規定」などについて議論するための小委員会設置などを決めた。新しく設置された小委員会では、フェアユース規定のほか、総務省で議論されている「通信・放送の法体系の見直し」に対応する著作権法のあり方などについても議論する予定。
著作権分科会ではこれまでも各種の小委員会を設置し、デジタル方式の録音録画について補償金の支払いを義務付けることを目的とした「私的録音録画補償金」や、「著作権保護期間延長」などに関する議論を行ってきた。
25日に開かれた分科会では、学習院常務理事で学習院大学教授の野村豊弘氏を分科会長に選んだ後、「基本問題小委員会」「法制問題小委員会」「国際小委員会」の設置を決定。
基本問題小委員会は、これまでの議論で結論が出なかった私的録音録画補償金や著作権保護期間延長問題に関し、そもそもなぜこういう制度が必要かなどについて「大所高所から議論を行う」ことを目的に設置。
また、法制問題小委員会では、2008年11月に政府・知的財産戦略本部の「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」が報告書で導入を提言した「日本版フェアユース規定(※)」や、総務省で議論されている「通信・放送の法体系見直し」における著作権法の在り方などについて議論することが予定されている。
※「フェアユース規定」=アメリカ合衆国著作権法などが認める、著作権侵害の主張に対する抗弁事由の一つ。著作権者に無断で著作物を利用していても、その利用がフェアユース(fair use)に該当するものであれば、その利用行為は著作権の侵害を構成しないとされる。
小委員会の設置了承後、分科会では、法制問題小委員会で議論するとされた日本版フェアユース規定の導入などについて委員の間で議論が行われた。
日本レコード協会会長の石坂敬一氏は、「フェアユース規定について拙速な議論が行われることを懸念している。著作権法の根幹に関わる問題でもあるので、多面的な議論を行うべき」と発言。
作家で日本文藝家協会副理事長の三田誠広氏は、「Googleが書籍のデータベース化をすると言っているが、これは明らかに複製権の侵害。世界中の作家にとって問題で、日本でも混乱をきたしている。米国での和解にあたってGoogleは告知広告は出したものの、謝罪は一切ない。これは米国のフェアユース規定によるもので、Googleは自分たちのことをフェアだと考えているからだ」と強調。
「日本では同様の事業を国会図書館が進めているが、国会図書館以外へのデータ提供は慎重であるべき。フェアユース規定導入には明らかに実害があり、慎重な議論をするべき」と述べた。
日本芸能実演家団体協議会専務理事の大林丈史氏は、「まずは土台づくりの議論を行って、きちっと土台が固まった上で議論すべき問題」と発言。
弁護士で中央大学法科大学院客員教授の松田政行氏は、「(文化庁の職員が務める分科会の)事務局は、著作権法改正にあたっての前提として『インターネットを利用した事業が諸外国に比較しても遅れている』と述べているが、こういう発想は基本的に間違い」と指摘。
その上で、「一般的制限規定(フェアユース規定)を導入すれば、極めて危険な状態が現われるのは明らかで、圧倒的な力によってGoogleのアナウンスに従わなければならなくなる。『日本が遅れている』という文章は、あたかもフェアユース規定を導入してもいいかのような表現であり、事務局は十分注意してほしい」と議論の前提を再考するよう求めた。
こうした意見に関し、文化庁著作物流通推進室長の川瀬真氏は、「委員の今日の意見も踏まえ、法制問題小委員会では、導入ありきではなく最初からベーシックな議論を行ってもらう」とし、議論を進めるための基礎資料の準備を進めていることを明らかにした。
今後各小委委員会では、2009年末の取りまとめに向けて、議論を進めていくことになる。