東レは3月23日、有機薄膜太陽電池の変換効率5.5%を実現したことを発表した。有機薄膜太陽電池の発電層は、光が当たると電子を放出するドナー材料と、放出された電子を受け取って電極(陰極)まで運ぶアクセプター材料の2種類の材料で構成されるが、今回の成果は、独自の分子設計による新規ドナー材料の開発により達成したものとする。
有機薄膜太陽電池は、Siを用いる太陽電池に比べ、印刷法やインクジェット法などの塗布プロセスを用いることで大面積に簡単に作製可能なため、低コスト化およびプラスチックフィルムなどへの製膜による用途拡大が期待されている。しかし、変換効率が低く、実用化には向かないのが現状だった。
東レでは、独自の独自のポリマー設計技術と有機合成技術を用いることで、ポリマー系ドナー材料を新たに開発した。一般的に、ドナー材料にはポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)に代表される共役ポリマーが、アクセプター材料にはフラーレン誘導体が広く研究されてきたが、変換効率の向上には、特に光吸収を担うドナー材料の高性能化が課題となっていた。新材料は、ポリマー骨格にアクセプター材料とのエネルギー差を高める構造を導入することで、約1Vの開放電圧(Voc:Open-Circuit Voltage)を実現した。また、同骨格は、酸化に対して安定な分子構造であるため、大気中での長期間保存においても高い性能を維持することが可能となっている。
一方、発電層は、ポリマー系ドナー材料とアクセプター材料がブレンドされた「バルクヘテロ接合」と呼ばれる独自の構成となっており、Vocを低下させること無く高いJscを得るためには、ポリマー系ドナー材料とアクセプター材料がナノレベルで相分離していることが望ましいとされていた。これに対し、東レでは、バルクヘテロ構造に適した置換基をポリマー系ドナー材料の側鎖に組み込んだポリマー分子設計を用いることで、理想的なバルクへテロ構造を形成させ、VocとJscの両立を成功させた。これにより、有機薄膜太陽電池で変換効率5.5%を達成したという。
なお、同社では今後、変換効率7%の実現などを目標に材料技術を早期に確立し、2015年頃の実用化に向けた材料性能向上を目指していくとしている。