MIX09 2日目の基調講演で、米MicrosoftがWebブラウザ「Internet Explorer(IE) 8」の最終版リリースを発表した。

Internet Explorer 8最終版リリース

IEチームを率いるDean Hachamovitch氏のTシャツは「Ready!」

IEチーム担当ゼネラルマネージャーのDean Hachamovitch氏が強調したのは「ネットユーザーのためのブラウザ」という点だ。「今日のブラウザ競争は、ナイトリービルド同士の争いになっている。この会場にいるようなブラウザと真剣に向き合っている人たち(デベロッパやデザイナー)には興味深いものだが、多くのユーザーは単にWebページをブラウズしたいだけだ」と指摘。より速いブラウザや目立つ機能を実装するだけでは、一部のユーザーの要望しか満たせない。一般ユーザーが求めているのは、悪意のある攻撃からユーザーを守り、Web利用を快適なものに変える"使えるブラウザ"である。「われわれは世界中の数百万のユーザーから集めたリアルなデータを基に、ユーザーの毎日のブラウジングがより速く安全なものになるようにIE8を仕上げた」とアピールした。

例えば、検索ボックスでの履歴表示は試しに追加してみただけだったが、ユーザーデータを通じて7%が履歴から選択するほど利用された。それから実装方法の改善に力を入れ、今に至る。逆にアドレスバーに表示していたRSSフィードからのデータには成長を期待していたが、1%しか利用されなかったため最終的には削除した。

履歴も対象になる検索ボックス。また70%のユーザーは複数の検索サービスを登録しているため、検索の切り替え方法を改善した

グループごと(Wall Street Journal、FOX News)に自動的に色分けされたタブ

ユーザーからのデータに向き合っているため、IE8は開発ペースがゆっくりしていた印象を持たれているが、その分ユーザーにとっての使いやすさに磨きがかかっているとHachamovitch氏は自信を見せた。一例として挙げたのが複数のタブの表示だ。サイトごとに自動的にグループ化して色分けされるので、たくさんのタブを開いていても簡単に大まかな違いを見分けられる。

リアルユーザーの期待に応えるには、信頼性と安全性が特に重要になる。そこでクラッシュ時のふるまいのデモも披露された。いくつかのタブの1つでビデオを再生しながら、タブの1つでクラッシュを起こした。ところが、ビデオ再生は停止せず、ビデオのナレーションが流れ続けた。アドオンとのメモリーアドレススペースやプロセスの共有を見直し、タブごとに独立させてクラッシュの影響が他のタブに及ばないようにした。

安全性については、ベータ2のリリース以降、IE8は週40人に1人の割合でマルウエアのダウンロードを防いできたそうだ。

PayPalを装った悪意のあるサイトに接続しようとしたところ、後ろのIE8ではアドレスバーで実際の接続先の部分のみが太字で浮き上がっている。手前はFirefox

NSS LabsのデータによるとIE8は、マルウエア検出率で競合ブラウザの倍以上の数値となっている

Internet Explorer 5リリースはAjax誕生だった!

Webブラウザのリアルな世界はユーザーだけで構成されているのではない。開発者もまた、リアルな世界に含まれる存在である。

開発者向けには2つのポイントを挙げた。まず「Web標準サポート」だ。とにかくCSS2.1のフルサポートにこだわり、相互互換を実現するために全てのテストの制覇を目指し、最終的に7,000を超えるテストケースをW3Cに提出したそうだ。講演では、いくつかのテストでChromeまたはFirefox 3.0.5で正しく表示されない例が示された。「IE8は、他のブラウザよりも多くのCSS2.1テストをクリアしているブラウザであり、これらのサンプルサイトがわれわれのモチベーションを表している」とHachamovitch氏。ブラウザ間の互換性の問題解決に時間を取られなくなれば、デベロッパはサイト開発により集中できる。だからフルサポート実現という姿勢が重要になるというわけだ。

右下のFirefoxの表示が崩れている

左下のChromeの数字の並びがおかしい

第2のポイントは「新しいチャンス」だ。Web SlicesやAcceleratorsなどは、IE8独自の機能で、開発者にIE8対応を強いるものであるという批判もある。だがHachamovitch氏いわく「ユーザーの実際のWeb利用に基づいたリアルデータの世界に、あなた方のサイトが関わるチャンス」である。

Webサイトの最新情報にお気に入りバーから簡単にアクセスできるWeb Slicesは、インタラクティブ性や手軽さがユーザーに受け入れられている。Web Slicesとして登録しているユーザーは、そのサイトに戻ってくる確率が、通常のユーザーよりも18%も高い。しかもスクリプトやデバグは必要はなく、タグをいくつか追加するだけで簡単にサイト側は対応できる。

アラートが並ぶESPNのWeb Slices

OneRiotのWeb Slicesでは検索も可能

Hachamovitch氏によると、IEにおけるユーザーのコマンド操作のトップ20のうち18はナビゲーションまたはタブに関わるものだ。しかもインタビュー調査では、「印刷」などナビゲーションやタブに関係のない回答が目立つ。つまりユーザーは無意識に、ナビゲート、コピー、新規タブ、ペーストといった作業を繰り返し続けているのだ。Acceleratorsは、この手間を省略するだけに、ユーザーに快適さを実感してもらいやすい。

Acceleratorsを使ってワンクリックでマップ表示

Acceleratorsで音楽試聴も可能

「IE8のリリースは完了ではなく、開発者の大きなチャンスの始まりである」とHachamovitch氏。ちょうど10年前に、MicrosoftはInternet Explorer 5をリリースした。そのIE5のWikipediaの記事には「Ajaxという言葉が作られるまで数年を要するが、(IE5リリースは)Ajaxの誕生だった」と書かれている。技術自体は存在したものの、Ajaxの可能性が開花するにはGoogle Mapsの登場を待つ必要があった。最後にHachamovitch氏は会場のデベロッパに対して「次のステップはあなた方次第。デベロッパがIE8をどのように活用するかで、その未来は全く異なったものになる。もちろんMicrosoftはあなた方の力に期待しています」というメッセージを送った。

最後のスライドは、開発プログラムを通じたユーザーそして開発者の協力に「Thanks!」