米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者がリチウムイオンの移動を高速化する、リチウムイオン二次電池向け材料の新処理技術の開発を明らかにした。充放電にかかる時間を大幅に短縮できるという。詳細は科学誌Natureの3月12日付け458号に掲載される。
リチウムイオン電池は高エネルギー密度を特徴としており、小さなサイズから大きな電力を引き出せるため携帯電話やノートPCなどの小型デバイスで幅広く利用されている。その一方で、入出力性能が課題となっている。MITのGerbrand Ceder氏は電気自動車のバッテリを例に「大量のエネルギーを蓄えているため長時間にわたって55mphで走行できるが、パワーが低くすばやい加速には不向きだ」と説明している。この原因は材料中を移動するリチウムイオンの速度にあると考えられていた。ところが5年前にCeder氏の研究班が行ったコンピュータシミュレーションでは、リチウムイオン二次電池の材料としてよく知られているリン酸鉄系リチウム(lithium iron phosphate) で極めて高速に移動できると予測された。「リチウムイオンが高速に移動できるのならば、原因は他にある」(Ceder氏)と考え、シミュレーションを重ねた結果、表面のトンネルから材料にアクセスした時のみイオンが高速移動することを発見。表面のリチウムイオンをトンネルの入り口に誘導できれば、イオンの移動はより高速化される。そこでCeder氏らはリチウムイオンの表面構造を改良し、「環状道路で囲まれた都市のように、(リチウムイオンが)効率的に流れる」(同)ようにした。このプロセスを施した材料を用いた結果、6分を要していた小型電池の充電・放電の時間が10-20秒に短縮されたという。また今日までのテスト結果では充電・放電を繰り返しても電池に劣化が見られない。より少ない材料で従来と同じ結果を得られるため、「電池の小型・軽量化にもつながる」としている。
材料の新プロセス技術は、2-3年で実用化にこぎつくとCeder氏は見ている。「数時間を要していたバッテリの充放電が秒・分のレベルに変われば、バッテリの利用方法が広がり、人々のライフスタイルを変化させる力にもなる」と、同氏はNature掲載の論文をまとめている。