FC EXPOで扱う出展物は多岐にわたる。自動車のような最終製品から、電解質膜のような部材まで、非常に幅広い。本レポートでは、製品が多く展示される「燃料電池システム・製品パビリオン」から、気になったものをピックアップしてお届けしたい。

FC EXPOの展示ホール

1充填で300km走行可能なアシスト自転車

FC EXPOでは、単に既存の電源を燃料電池に置き換えただけの製品のデモも多く、そういった展示はほぼ"客寄せ"目的で市販化されることはほとんどないのだが、Horizon Fuel Cell Japanは、販売を前提としたアシスト自転車「HMX」を出展していた。水素で駆動するもので、1回の充填で300kmの走行が可能だという。

燃料電池アシスト自転車「HMX」

水素吸蔵合金のタンクが2本

参考価格は4,600ドル。こういった製品の場合、燃料の供給をどうするかという問題が常につきまとうのだが、家庭で水素を充填できるシステムを開発することを考えているそうだ。水素であれば、水を電気分解することで生成が可能だ。

そのほか、同じく水素を燃料とする携帯充電器「MiniPak」も年内の発売を計画しているとのこと。参考価格は50ドル。本体にはUSBコネクタが用意されており、そこから携帯電話などへの給電が可能となっている。当初は充填済カートリッジを販売し、2010年には家庭用の充填システムも実現したい、としていた。

携帯充電器「MiniPak」と燃料カートリッジ

学習キットもいろいろ用意している

水を加えると水素が発生

バイオコークは、昨年同様、水素化マグネシウム(MgH2)を使った燃料電池のデモを行っていた。

この粉末が水素化マグネシウム(MgH2)。1gから1.8リットルの水素が発生

タンク下部で水とMgH2が反応する。すると水素が発生する

MgH2に水を加えると、水素と水酸化マグネシウムが生成される。マグネシウムでも同様の反応が起きるが、MgH2は安定しており、マグネシウムのような危険性はない。同社は、このMgH2の工業生産に成功している。

水素の生成原理は昨年と同じだが、今年の特徴は、水とMgH2を1本の燃料カートリッジにまとめたことだ。まず機器側で電力を消費すると、カートリッジ内の水素が使われ、気圧が減少。するとカートリッジ上部から水が下りてきて、反応により水素が生成される。気圧が上がると、再び水は上に戻って反応が止まる、という仕組みだ。

同社は東洋製罐と協力し、非常用のモバイル電源として実用化する考え。秋頃には発売したいとしており、価格は6-10万円前後になる見込み。同社は非常用電源として、劣化の少なさをアピールしている。

AC電源とUSBが用意されている

こちらは小さいバージョン

燃料電池カーがラジコンに

ケニスは、燃料電池の教材用として、水素で駆動するラジコンカーを出展していた。従来製品は前進するのみだったが、新製品はコントローラで前後移動や左右旋回などの操作も可能になった。3月末の発売予定で、価格は27,300円。

燃料となる水素は左のステーションで生成する

芸は細かい。ターボボタンを押すとダッシュ

あまり燃料電池とは関係ないような気もするが、「サイエンスキューブ」という製品も面白かったので少し紹介したい。これはPCに接続可能な3chのデータロガーなのだが、センサーの種類が非常に充実しているのが特徴。温度や電圧は基本として、中には放射線や酸素・二酸化炭素を計測するものも。データはPC上でExcelに取り込むことが可能だ。

「サイエンスキューブ」。スタンドアローンでも動作する

非常にセンサーの種類が多いのが特徴。リストはコチラを参照

サッカーボール型の宇宙用燃料電池

販売用ではないのだが、ケミックスのブースでは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙オープンラボ制度で開発された宇宙用の燃料電池を見ることができた。宇宙用の燃料電池は、未反応ガスを排出しない閉鎖型であるのが特徴。歴史は意外と古く、1960年代のジェミニ計画ですでに実用化されている。

宇宙用の燃料電池。出力は150Wだという

固体のリチウム電池も - 二次電池フェア

今回のFC EXPO/PV EXPOでは、新たに「二次電池フェア」のコーナーが設けられていた。燃料電池や太陽電池は、特性上、ともに電力の変動には強くない。そのため、リチウムイオン電池などの二次電池を併用するハイブリッド型を採用する場合が多く、技術的な繋がりは強いのだ。

二次電池フェアの会場

ちなみに、すでにレポートしたソニーの燃料電池もハイブリッド型だった。ここでは、リチウムイオン電池は、燃料電池の出力に余裕があるときに充電され、不足するときに放電を行う。燃料電池だけで動かす場合だと、出力容量は「最大電力」にあわせる必要があるが、ハイブリッド型の場合は、「平均電力+α」で済む。結果的に機器を小型化できる。

ソニーの例。燃料電池を効率的に使っていることが分かる

3つのモードを切り替える。起動/停止時はリチウムイオンのみ

二次電池フェアのブースで注目したいのは、全固体のリチウム二次電池を出展し、動作デモを行っていた出光興産。現在、ノートPCなどで主流なのはリチウムイオンバッテリであるが、時々ニュースになるように、これは基本的には発火しやすい危険なものだ。そのため、しっかりした保護回路などが搭載されるのだが、出光が採用した固体の硫化リチウムは、300℃程度まで安定なのだとか。

動作デモが行われていた

電解質が固体のリチウム二次電池

課題となっていたのはイオン伝導性の低さだが、2004年にこれが実用レベルに達したそうだ。伝導性自体は、通常の有機系電解液とポリマー電解質の間になるが、リチウムイオン輸率は100%と高いので、実質的にはリチウムイオン電池と同等だという。また全固体リチウムの特徴としては、過充電・過放電に対する強さがある。同社は、材料、製品の両面で実用化を目指す意向。

イオン伝導性。リチウムイオン輸率が高い

電解質になっているのは硫化リチウム