現在の携帯電話は通信方式がGSM, EDGE, WCDMA, HSPA, EGPRSなど複数存在する。これらは、GSM/EDGE方式、WCDMA/HSPA/EGPRS方式とも4つの周波数を使い分ける。

さらに最近では携帯電話でGPSも利用するため、さらに信号処理する周波数が増える。コスト削減を考えるとこれらが1チップ上に集積されていた方が良いため、1チップ化が実現されてきた。

しかし、SAW filterだけは例外で、従来はこのSAW filterだけはチップの外で実装していた。しかも周波数ごとに必要となるため、通信方式が増え、利用する周波数が増えるごとに必要となる数が増えていく。

SAW filterを製造する企業はこれらの傾向のおかげで近年売り上げを伸ばしてきた。ところが、ここに来て SAW filterを必要としない信号処理ICが登場してきたのである。

この SAW filterはアンテナ直後に利用されるものと、LNAとMixerの間に利用されるものの2つがある。近年削減されているSAW filterは後者の方である。このSAW filterは妨害波を取り除くために利用されている。つまり、回路でこの妨害波を取り除くためには消費電力が大きくなってしまうため、これまではSAW filterで取り除いていたのである。

2008年のISSCCではタイトルに「SAW-less」や「without SAW」などがあるものは1件(10.2)だけであったが、2009年のISSCCではタイトルにあるもので3件(6.2,6.3,6.5)あり、それ以外にもSAW filterの数を削減したという内容の発表も1件(6.4)あった。

ところで、このセッション(Cellular and Tuner)では、著者が発表を取り下げるという論文(6.3)があった。

長い ISSCC の歴史の中では珍しいことではないのかもしれないが、私が知る限り、この世界中の集積回路の設計者が注目する国際会議で発表を取り下げるという事実は初めてであった。

SAW-lessの方法

さて、具体的な発表内容について少し報告したい。

タイトルにSAW-lessを掲げる6.2と6.5(6.3は残念ながら発表がなかったので具体的にどのような方法でSAW-lessを実現しているのかは分からなかった)で共通していることは、mixerで使うGilbert Cellを原因としていることであった。V-I変換にGilbert Cellを用いるとnoise floorを上げ、その結果SAW-filter が必要になる。

6.2の発表ではGilbert Cellを改良することでSAW-less を実現していた。6.5 の発表ではそもそもGilbert Cellを用いずV-I変換を実現していた。システム全体としてはこれ以外にも、DC offset caribration, IM2 calibrationなど多くの工夫を用いて実現していた。

6.2のチップはBiCMOSのプロセスを用いて、すでに大量生産されていると報告していた。

6.5のチップは45nm CMOSプロセスを用いて製造されていて、性能比較の中には電力効率を載せており、2007年の段階で1%だった効率が、2008年で3.3%、この報告で5.7%と効率の改善を実現していることも強調していた。