パイオニアは、薄型テレビ事業(ディスプレイ事業)からの完全撤退を含む構造改革を発表した。パイオニアの小谷進社長は、「5期連続の最終赤字という厳しい状況から脱却し、当社が再び光り輝くために、大きな痛みを伴う取り組み。私が先頭に立ち、不退転の決意で取り組む」とし、ホームエレクトロニクス部門ではディスプレイ事業からの完全撤退に加え、光ディスク事業の合弁を視野に入れた協業化への転換、オーディオ、DJ機器、CATV関連機器への集中を発表。また、カーエレクトロニクス部門の構造改革と、重点事業へのリソースの集中を加速する姿勢を示した。
これまでパイオニアでは、ディスプレイ事業に関しては、今年3月末までにプラズマパネルの自社生産体制を終了する方針を出し、プラズマパネルはパナソニックから、液晶パネルは資本関係があるシャープから調達し、プラズマテレビ事業の継続と、液晶テレビ事業への参入を予定していた。
また、欧州販売体制のスリム化や、海外におけるプラズマテレビ生産拠点の閉鎖などにも取り組むほか、2008年3月末から12月末までに5900人の人員を削減し、3万6900人体制としていた。
事業ポートフォリオを再編成
だが、今回発表した新たな構造改革では、事業ポートフォリオの再編成、グループ全体の事業体制のスリム化、財務体質の改善にも踏み込み、薄型テレビ全般に渡る自社開発を中止するとともに、テレビ向けパネルの調達も停止。現在販売している商品を最後に、2010年3月までに完全撤退することになる。「先駆けとなった事業を断念するのは断腸の思いである。だが、このままでは損益改善が見えない。ユーザー、販売店をはじめ、これまでご支援を頂いた皆様に感謝したい」と小谷社長は語る。
同社は、97年に家庭向けプラズマテレビを発売し、04年にはプラズマ事業からの撤退を決定したNECから生産拠点を含めて事業を買収。事業拡大に向けた地歩を固めてきた。また、2007年からはKUROのブランドで、パイオニアならではの映像技術を活かしたプラズマテレビを投入。画質へのこだわりを持つユーザーからは高い支持を得ていた。
だが、競争激化による価格下落と販売数量の減少、さらには昨今の市況低迷の影響が大きな打撃となり、収益性が悪化。今回のテレビ事業撤退へとつながった。小谷社長は、「プラズマテレビ事業は、続けられれば続けたいと思っている。国内外で高い評価を持つKUROをはじめ、技術面では自信を持っているし、技術者たちの思いも十分わかっているつもりだ。なんとか続けられないかと手を尽くしたが、昨年10月からの急激な経済環境の悪化により、薄型テレビの価格下落が我々の想定を遙かに上回るスピードで進展し、構造改革のスピードでは損益改善ができないことが明白になった。パイオニアが再び立ち直り、光輝くにはこの判断しかなかった。申し訳ない」などとし、プラズマテレビ事業の継続に、最後までに強い思いを持って取り組んでいたことを示した。
全世界で6000人の人員削減
同社では、プラズマパネル技術に関する特許を多数保有していることから、これを今後、提携関係にあるパナソニックに譲渡するどうかも注目されるといえよう。小谷社長は、この点に関しては、「今後のパナソニックとの話し合いによる」と説明した。 なお、同社では、これまで販売した製品のアフターサービスは引き続き行うことを明らかにしている。
さらに、光ディスク事業についても合弁も視野に入れた具体的な協業について検討を開始している。これに関しては、シャープとの合弁になる可能性が強いといえそうだ。同社では、近いうちに詳細を発表できるとしている。
また、パイオニアでは、今後のホームエレクトロニクス事業の中心は、オーディオ、DJ機器、CATV関連機器の3つに絞り込む姿勢を示し、「とくに音へのこだわりを持ち、音に関する知識や技術を活かし、新たな事業領域にも取り組んでいく」とした。
カーエレクトロニクス事業については、新たなビジネスチャンスに挑戦すること、BRICsを中心に事業を拡大すること、OEM受注の拡大、コスト低減を主軸とした体質強化に乗り出すことに言及した。
また、グループ全体の体制スリム化では、国内外の生産拠点の集約化、全世界の販売体制のスリム化、本社機能、研究開発機能の見直しに着手することに言及。2008年12月末時点の3万6900人の社員に対して、全世界で6000人の人員削減を行う計画を示した。
そのほか、財務体質の改善としては、棚卸資産および売掛債権の圧縮、設備投資の抑制、遊休資産の売却、役員報酬および従業員給与のカットのほか、財務面でのパートナーシップを検討するという。なお、役員報酬減額の幅を、2009年2月から基本報酬部分の20-50%とするほか、役員報酬はこれまで同様に支給しないという。
2011年3月期の黒字化を目指す
一方、将来の成長に結びつく新規事業の開拓として、光ディスク製造技術・微細加工技術を応用した「次世代ハードディスク製造装置」や、高感度撮像素子を利用した高付加価値部品などの保有技術をもとにした産業用分野への展開などを目指すほか、家庭における「生活音」に対する研究などを進めるという。 今回の構造改革の成果として同社では、2010年度(2011年3月期)の黒字化を目指していることを明らかにした。