「Adobeはプラットフォームベンダだ」 - 2008年11月にサンフランシスコで開催されたAdobe MAX 2008で、同社CTOのKevin Lynch(ケビン・リンチ)氏は公式の場で何度かそう口にした。どちらかといえばクリエータ向けのソフトウェアベンダとしての印象が強かったAdobeだが、2005年のMacromedia買収以来、開発者やビジネスパーソンを対象とするエンタープライズ分野にも積極的に進出し、また、NTTドコモとの提携を積極的に進めるなど、携帯デバイスへの取り組みも顕著だ。
Kevin Lynch氏が言う"プラットフォーム"とは間違いなくFlashを指している。同氏は今回のAdobe MAXのテーマとして「クラウドコンピューティング」「ソーシャルコンピューティング」「マルチデバイス(スクリーン)」の3つを掲げているが、そのいずれもFlashプラットフォームによる"Write Once, Run Anywhere"を戦略のベースとしている。
今後、AdobeはこのFlashを中心とするテクノロジを、どのように浸透させていこうとしているのか。同社技術部門の最高責任者であり、"ハリー・ポッター(魔法使い)"のニックネームで知られるKevin Lynch氏が、29日から開催されたAdobe MAX Japan 2009報道陣に向けて語ってくれた。
--あなたが「Adobeはプラットフォームベンダ」と言われるときの"プラットフォーム"とは、Flashを意味していると理解してよいでしょうか。
(正確には)Flashのプラットフォーム、つまりFlashをベースにした技術全般を指しています。Flex(Flex Builder含む)、AIR、Flash Catalyst、Flash Media Server、Flash Lite、Cocomo、さらにはコンテンツを配信するサーバテクノロジや、コンテンツのベースとなるCSツールズ(Creative Suite)まで含めてよいでしょう。Flashとその周辺技術すべてを含んだエコシステムを"プラットフォーム"と位置づけています。
--プラットフォームとしてのFlashの普及を考えるとき、デバイスやユーザのプロパティによるフラグメンテーション(細分化)が問題になるのではないでしょうか。
その問題は2つの面から検討できると考えています。ひとつはランタイム(動作環境)、もうひとつは(ユーザが)開発者かデザイナーかというものです。
ランタイムに関しては一貫性、たとえばPC用のFlash Playerと携帯デバイス用のFlash Liteを一緒に配布すべきか、という問題があります。またデバイスごとに配布するFlashを別にすることで、それぞれのコミュニティに対する訴求の仕方が異なってくるという問題もあります。さらに、いずれの問題についても、Flashのアップグレードをどのように行うか、ということも考えなくてはなりません。
考えられる解決策としては、AIRアプリケーション上でアップグレードを行うというものです。そうすればランタイムのフラグメンテーションはある程度解決できるでしょう。また、OSP(Open Screen Project)が今よりももっと発展すれば、各クライアント上でのアップグレードが容易になる可能性は高いです。
また、対象ユーザがデザイナーか開発者か、という問題の解決策として、「プラットフォームビジネスユニット」というユニットを新規にローンチする計画があります。具体的な目標として、Flex Builderのユーザ数を100万人にすることなどを掲げています。これによってデザイナーと開発者がもっと一緒に行えることを増やしていきたいのです。現在でも、デザインも開発も両方とも器用にこなせる人々はいますが、我々としては(デザイナーにも開発者にも)それぞれのプロパティに依らず、より生産性の高い仕事をこなせるようになってほしいと考えています。