日本版SOX法、IFRS(International Financial Reporting Standards: 国際財務報告基準)など、内部統制、会計についての、企業に対する規制は多様化するとともに、厳しさを増している。このような状況の下、今後、国内でも規制がさらに強化されることが見込まれているのが、いわゆる「マネーロンダリング(資金洗浄)」への対応だといわれる。
一般に、「マネーロンダリング」とは、違法な手段により得た資金を、複数の金融機関を経由させる、あるいは証券に換えるなどの方法で、出所をわからなくして、合法的に得た資金であるかのようにみせかけることだ。国境を越えるような犯罪も増加していることから、「マネーロンダリング」対策は国際的な取り組みが求められており、「マネーロンダリング」対策の発展と促進を目的として、政府間機関のFATF(Financial Action Task Force: 資金洗浄に関する金融活動作業部会)が1989年に設立され、32カ国が参加している。
日本では2003年1月「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律(本人確認法)」が施行され、顧客の本人確認、本人確認記録・取引記録の作成・保存が、金融機関などに義務づけられている。さらに、2008年3月から「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)」が施行されているが、FATFが同年10月に公表した「対日相互審査」の結果によれば、日本は「マネーロンダリング」対策が十分ではないと指摘されている。
このように、非合法的な資金の流れへの歯止めが強化されることに伴い、内部統制をはじめ、企業の危機管理を担う「GRC(Governance、Risk Management、Compliance)」製品の扱う要素として、「マネーロンダリング」は、新たな争点として浮上してくる可能性は十分ありそうだ。日本オラクル システム事業統括本部 シニア・ディレクターの入江宏志氏は「今後、日本でもさらに厳しい法律が制定されるかもしれない」と話す。
日本オラクルでは、この領域に対するソリューションとして「Mantas Anti-Money Laundering」を用意している。この製品は、米オラクルが買収した、旧i-flexの製品を源流としている。「Mantas Anti-Money Laundering」はトランザクションをモニタリングし、既存の取引ログを監視、疑わしいものをあぶりだす。勘定系システムからさまざまなデータを取り込み、蓄積し、行動パターンを基に、予め定義された「シナリオ」により、行動を検知する。「シナリオ」はあわせて300あり、そのうち、100程度が「マネーロンダリング」関連のものだ。
「シナリオ」による、「不正」の検出は、おおむね以下のような仕組みだ。顧客や口座ごとに、過去の取引実績を基準に、「想定される取引」を設定、ここで算出される「予想額」に比べ、実際の取引金額が大きくかけ離れたものであったような場合、警告を発する。ただし、1ヶ月の総取引件数、あるいは、総取引額に閾値を設け、それを上回る場合に適用される。たとえば、過去の実績が、月総取引件数が5回以内、総額平均100万円、といった顧客が、ある月に、同7回、同200万円となったような場合、警告が出るという。Mantasには、これらの警告を自動的にアナリストに割り振る機能もあり、彼らはそれを調査し、問題の案件が多角的に検証できるようになっている。
「マネーロンダリング」対策のソリューションには「大別して、ルールベースとプロファイルベースの2つの手法がある」(日本オラクル セールスコンサルティング統括本部 Financials SC本部 プリンシパルコンサルタント 古瀬泰介氏)。ルールベースは、事前定義されたルール(シナリオ)を用いて、異状を検出する。一方、プロファイルベースは、行動パターンを解析して、不正な行動を抽出する。
「Mantas Anti-Money Laundering」はルールベースだが、これは「わかりやすく、透明性が高い。入手しやすいデータから始めることが可能で、これらがこの製品の大きな特徴といえる。当社としては、日本の金融機関には、ルールベースが採用しやすく、有効ではないかと考えている」(同)。古瀬氏によれば「Mantasは6-8ヵ月で導入が可能」だという。同社ではMantasの最大の効果は「手作業ではとても見えてこないものがみえるようになること」(同)としている。
犯罪の手口は日々、巧妙化、複雑化していくわけだが、Mantasには、ユーザーのコミュニティがあり、会議が開催されるなど、さまざまな情報交換が行われており、同社では「現場の声を反映させ、適宜、それらを製品開発に活かしている」(同)
「Mantas Anti-Money Laundering」はすでに、北米を中心に40社以上に金融機関で導入されている。国内では2006年10月から提供が開始されており、金融機関数社で採用実績があるという。同社では、パートナーと共同で、国内でのいっそうの拡大を図っていく意向だ。