総務省の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」は21日、第48回会合を開き、デジタル・コンテンツ使用の許諾権を法的に制限する民間団体の案などに関する議論を行った。「法的に著作権を制限するのはおかしい」との私見を公表した弁護士の松田政行氏は「権利者と通信事業者は対立するのではなく、徹底的に話し合って」と呼びかけた。
民間団体から提言相次ぐ著作権の制限案
デジタル・コンテンツの流通促進に関しては、2008年3月、民間研究団体「デジタル・コンテンツ法有識者フォーラム」が、ネット上の著作権を制度的に制限しようとする「ネット法」を提案。同案では、ネット上の流通に限定した、デジタル・コンテンツの使用権(ネット権)を創設。このネット権を、映画製作者や放送事業者、レコード会社などに付与し、著作権者は、コンテンツのネット上での使用に対する「許諾権」を制限されるとした。
今年に入ってからは、今月9日、東京大学名誉教授・弁護士の中山信弘氏を会長とする「デジタル・コンテンツ利用促進協議会」が、会長と副会長の私案として、(1)対象となるデジタル・コンテンツの利用に関する権利の集中化、(2)権利情報の明確化、(3)対象コンテンツの適正な利用と原権利者への適正な還元に向けた仕組み、(4)フェアユース規定の導入、の4項目の実現を求める提言案を発表。会員の議論を経て、立法化を目指すとしている。
21日に開かれた総務省の検討委員会の会合では、この提言案について、デジタル・コンテンツ利用促進協議会の事務局・監事を務める弁護士の櫻井由章氏があらためて説明。
「法的制限でなくモデル契約の作成で流通促進すべき」と主張
その後、森・濱田松本法律事務所の弁護士で、2008年11月に設立総会を開いた「ネットワーク流通と著作権制度協議会」の会長職務代行を務める松田政行氏が、「ネットワーク流通の私見」と題して、持論を展開した。
まず、デジタル・コンテンツのネット流通を阻害している原因として、(1)ビジネスモデルが成立していないこと、(2)違法コンテンツが氾濫していること、(3)コンテンツの権利処理が煩雑なこと、を指摘。
その上で、デジタル・コンテンツのネット流通を促進する要素として、以下のものを挙げた。
諸権利者間の「配分ルール」の合意
諸権利の「一元化」
権利情報のメタデータ化
ネットで収益を上げるためのビジネスモデル
2の権利の一元化については、デジタル・コンテンツ利用促進協議会の提言案などが想定している、著作権を制限する法律による一元化ではなく、「著作権によるモデル契約とガイドラインによって実現すべき」と主張。対象となるコンテンツは、一元化が難しい放送コンテンツとし、法令に関しては現行の著作権法の規定を一部見直せばいいと述べた。
権利集中を行うためのモデル契約とガイドラインについては、「関係者間で議論し、時間をかけて作成していくべき」とし、「たくさんの契約モデルをつくりながら議論していくことになるが、いずれ必ず収斂(しゅうれん)していくものだ」と拙速な議論を諌めた。
また、「アウトサイダーらが権利に関する訴訟を起こす余地を排除してはならない」とし、「モデル契約によっては定まらない権利に関する紛争、配分額の紛争のあっせん制度の改正か、著作権などの管理事業者が設定するADR(Alternative Dispute Resolution、裁判外紛争解決)も検討すべき」と主張。法律による少数者排除を退ける意見を述べた。
4のビジネスモデルについては、「ただネットに流せばいいというわけではなく、ビジネスマンの側で考えるべき課題」と指摘した。
権利者から松田氏の考え方に理解を示す意見も
その後行われた委員らによる議論では、著作権を法的に制限すべきとする櫻井氏の説明に関し、権利者を代表する委員から、従来通り「コンテンツを安価に使おうとする"ムシのいい話"」と反発する意見が次々と述べられた。
だが、時間をかけて権利集中化のモデル契約とガイドラインを作っていくべきとする松田氏の主張に関しては、それほどの反発はなく、「よく理解できる」とする意見もあった。 会合の最後に松田氏は、「著作権法は、よく知らない人にとっては、規制をするための法律と考えられる傾向にある」と指摘した上で、「通信事業者の立場、権利者の立場、それぞれあると思うが、対立関係としてとらえるのではなく、徹底的に議論してはどうか」と提案。
「ネットに放送コンテンツを流したとしても、視聴者がどんどん見るようなことにはならない」と笑いを誘った上で、「どうやったらデジタル・コンテンツの流通促進ができるか、当事者間でじっくり話し合ってほしい」と呼びかけた。
検討委員会では、今回の会合の議論を踏まえた上で、下部組織である取引市場ワーキング・グループで議論を整理。委員会としての意見をまとめるための作業を進めていく。