水族館でも大人気のラッコは絶滅の危機にある…

カリフォルニア州モントレーを中心とする沿岸域に生息するカリフォルニアラッコは、18世紀には2万頭近く生息していたが、毛皮目的の乱獲で大幅にその数を減らし、現在確認されているのはわずか2,700頭前後だ。個体数を増やす試みが続けられているものの、他の生息域に棲むラッコに比べて病原体に感染して死亡する率が高く、良い兆候は見られていない。カリフォルニアラッコがなぜ病気にかかりやすいのか、その調査論文が1月21日(現地時間)付けの『Proceedings of the National Academy of Sciences』誌に掲載されている。同論文によれば、ラッコの個体数増を妨げているのは、"貧弱な栄養源"が引き起こすトキソプラズマ症が大きな要因として考えられるという。

調査はモントレー湾、およびサンシメオンからカンブリアにかけて生息する野生のカリフォルニアラッコを対象に行われた。

ラッコがはアワビやウニを主食とするが、ラッコが繁殖しすぎるとこれらの魚介類は大幅に減少する。十分な量のアワビがなければ、ラッコはその代わりにウミカタツムリ(marine snail)などの巻き貝を補食するが、同調査によれば、アワビだけを食べているラッコがトキソプラズマ症やサルコシスティス症などの感染症にかかる率が22%であるのに対し、それ以外の貝を食べているラッコの感染率は95%と大幅に高くなっているという。つまり、巻き貝に含まれるトキソプラズマや肉胞虫などの病原虫が、感染症や脳炎を引き起こす大きな要因だと考えられる。

脳炎を引き起こすトキソプラズマ症は、カリフォルニアラッコに多く見られる病気で死亡原因の上位となっているが、なぜ他の地域のラッコに比べてその罹患率が高いのかはこれまでわかっていなかった。

生態系のバランスや漁獲資源を考えれば、野生のラッコが捕食できるアワビやウニの量を大幅に増やすことは難しいが、「排水、下水の海への流出を最小限に抑えることで、トキソプラズマの量を減らし、(ラッコの)個体数減のリスクを減らすことができる」と論文の共同執筆者で生物学者のTim Tinker氏は語っている。

カリフォルニア州のモントレー湾はカリフォルニアラッコの有名な生息地。左はケルプ(海草)を体に巻きつけ、モントレー湾にたゆたう野生のラッコ(2004年5月撮影)。右はモントレー湾のすぐそばにあるモントレー水族館のラッコ。こちらは汚染されていないアワビを毎日おなかいっぱい食べることができる