会見が始まる前には一度止んでいた雨は、会見が終わるころにはまた降り出していた。まるで、一時は業績回復の足がかりを掴んだかにみえたものの、再度、業績悪化に陥り、いよいよ中核となる液晶テレビ事業の構造改革に着手しなくてはならなくなった、この日のソニーの様子とダブってみえる。

「いまは厳しい試練の時。黒い雲が晴れた時のチャンスに備えなくてはならない」 - ソニーのハワード・ストリンガー会長兼CEOはそう語り、ソニーグループ全体で、2009年度までに2500億円の費用削減、液晶テレビ事業における1,000人規模の人員削減策などを盛り込んだ経営体質強化施策を発表した。

会見に臨む(左から)大根田伸行執行役EVP兼CFO、ハワード・ストリンガー会長兼CEO、中鉢良治社長兼エレクトロニクスCEO

「ソニーを変革し、収益性を回復させることが、私の責任である」とストリンガーCEOは言い切る。

2008年12月には、エレクトロニクス事業領域における投資計画の見直し、製造事業所の統廃合、人員の最適化などの施策を通じて、1,000億円以上の費用削減効果を、2009年度末までに実現できる体制構築の計画を発表したが、今回の発表では、各種施策の前倒しや追加施策の実行、ゲーム、音楽、映画などのビジネスにおける構造改革の実施、広告宣伝費や経費、物流費、その他費用の大幅な削減を実施することで、2009年度にはグループ全体で、2008年度比で総額2,500億円の費用削減を目指す。これに伴う構造改革費用として、2008年度で600億円、2009年度に1,100億円の総額1,700億円を計上する計画だ。

また、中鉢良治社長兼エレクトロニクスCEOが、「テレビ事業の復活なしに、エレクトロニクス事業の復活はない」とし、最重点事業に位置づけていた液晶テレビ事業についても構造改革施策を実施。生産体制では、ソニー・イーエムシーエス一宮テックで行っていたテレビの設計/生産を、2009年度6月を目標に終了し、国内テレビ事業の拠点を、隣接するテレビ生産の稲沢テックに集約。両拠点あわせて2,600人の従業員のうち、1,000人を削減する。2,600人のうち、約1,000人が正社員、約1,600人が非正社員であり、まずは非正社員を対象に削減を図ることになりそうだ。

ハワード・ストリンガー会長兼CEO

中鉢良治社長兼エレクトロニクスCEO

また、新興国市場の成長による普及価格モデルの比率増加を見据えて、OEM/ODM展開を加速し、アセットライト化を推進する。さらに、液晶テレビの設計体制では、ハードウェア設計およびソフトウェアをグローバルに共通化し、全世界に分散した設計開発リソースを集約。ソフトウェア開発の一部領域をインドなどの海外の外部リソースへ委託。全世界の設計および関連する間接部門の人員を2009年度末までに30%削減する。30%にあたる具体的な人数については、同社では明らかにしていない。

「競争領域については自前による垂直型のビジネスモデルとし、非競争領域はアウトソーシングを積極的に活用していく」(中鉢社長)姿勢を新たに示した。

エレクトロニクス事業への取り組み

一方で、半導体・コンポーネント事業においては、競争力強化に向けて開発、設計、製造部門を集約。中小型液晶事業については、愛知県知多郡のソニーモバイルディスプレイに、バッテリー事業については福島県郡山市のソニーエナジー・デバイスにおいて、それぞれ一体化した組織として、オペレーションを実行できる体制とする。

また、人事関連では、賞与などの大幅減額を実施。代表執行役であるハワード・ストリンガーCEO、中鉢良治社長、井原勝美副社長の3人については、2008年度の役員賞与を全額返上。年収では前年比50%以上の減額となる見込みだという。また、執行役や業務執行役員の役員賞与についても、前年比70%以上の減額を予定。定額報酬についても減額する計画で、規模は決定していないが、年収では30%以上の減額になる見込みだ。さらに部長および課長の管理職についても、35 - 40%の賞与減額と月次報酬の減額によって、年収で10 - 20%の減額になる見込みだ。

さらに、国内の本社、事業部門などを対象に、2月から早期退職支援制度を実施し、特別加算金の支払いおよび就職支援会社を斡旋を行う。早期退職制度の人員規模については明らかにしていない。

ハワード・ストリンガー会長兼CEOは、「固定費がかさんでいること、サプライチェーンのスピードが遅いこと、部門ごとの縦割りであるサイロが残っていること、新製品導入の遅れがあること」などを、社内的な問題として掲げた。

経済環境の激変に、ソニーの構造改革が追いつかなかったともいえるだろう。同社では2008年6月に発表した経営方針のなかで、2010年度までに世界ナンバーワンのテレビメーカーを目指すことを標榜した「コアビジネスのさらなる強化」、2010年度までにソニーの製品カテゴリの90%をネットワーク対応にすることを打ち出した「さまざまな商品に対してネットワーク接続サービスを提供」、2010年度までにBRICs諸国で売上高を2倍とすることを盛り込んだ「BRICs諸国や新興市場における成長を最大限に活用」の3点を掲げていたが、こうした中期計画の目標についても、今後は見直しをする必要が出てくるだろう。

「テレビ事業の黒字化の時期や、2009年度以降の業績については、春の時点で改めて発表することになる」(大根田伸行執行役EVP兼CFO)として言及を避けたように、現時点では、その具体的数字が明確できない状況にあるともいえる。

同社では、エレクトロニクスの主要カテゴリにおいて、スピードと収益性を主眼において事業構造の変革を進めるとともに、世界的経済危機の影響を最小化するための継続的なコスト削減の実施、エレクトロニクスグループとゲームグループの連携を強化し、ハードウェアとネットワークサービスの融合を加速することを目指すという。

コスト削減策のひとつとして、エレクトロニクスグループとゲームグループの連携強化を掲げる

大根田伸行執行役EVP兼CFO

だが、こうした追加施策を実施しても、2008年度はもとより、2009年度中の業績回復も難しいというのが率直な感想だ。課題事業ともいえる液晶テレビの赤字を回復させない限り、ソニーの成長戦略は描けないともいえる。

中鉢社長は、「世界ナンバーワンのテレビメーカーになる目標時期については、具体的なアイデアがない」と言葉を濁らせ、ストリンガーCEOも「トップシェアということだけでなく、収益性でもトップであることを目指さなくてはならない」と手綱を締め、トップメーカー到達の時期を事実上先送りしたともいえる。

2009年度に液晶テレビ事業をどこまで回復できるかが、ソニーの復活を左右するの明らか。それは、これまでも、これからも変わらない。

また、ソニーは、2008年度の業績見通しの下方修正を発表した。

連結売上高は、10月時点の9兆円の見通しから、前年比13%減となる7兆7,000億円へ下方修正。営業損失は、2,000億円の黒字見通しから2,600億円の赤字に、税引前損益は2,100億円の黒字から2,000億円の赤字に、当期純損益は1,500億円の黒字から1,500億円の赤字を見込む。世界的な景気後退に伴う事業環境の悪化、為替市場における円高の進行、日本の株式相場下落の影響、構造改革費用の追加などにより、2008年度下期における連結売上高および営業利益が、10月時点の見通しを大きく下回る見込みであることが要因とした。

また、10月見通しからの変動要因としては、エレクトロニクス分野において、世界的な景気後退に伴う事業環境の悪化や価格競争の激化により約2,500億円、円高の影響により約400億円、構造改革費用の追加で約300億円、持分法適用会社の業績悪化により約200億円の合計3,400億円想定を下回ること、ゲーム分野において、円高の影響により約150億円、売り上げが想定を下回る影響により約150億円の合計300億円想定を下回ること、映画分野において、構造改革費用の追加、景気後退による売上高の減少および円高の影響により、約130億円想定を下回ることをあげた。また、設備投資額についても、4,300億円の計画から3,800億円に減少させる。

主要製品の販売計画についても下方修正を発表。液晶テレビのBRAVIAは、10月時点の1,600万台の計画を1,500万台に、ビデオカメラのハンディカムは700万台から620万台に、デジカメのサイバーショットは2,400万台を2,150万台に、ブルーレイディスクレコーダーは60万台から50万台に、パソコンのVAIOは680万台から580万台とした。

さらに、第3四半期(2008年10 - 12月)の暫定業績についても公表。「年末商戦では、想像を遙かに越える厳しい結果となった」(大根田執行役)として、連結売上高は前年同期比25%減の2兆1,500億円、営業損失は180億円の赤字、税引前利益は前年同期比80%減の660億円、当期純利益は95%減の100億円となった。

10月時点の見通しから大幅な下方修正を余儀なくされた

連結業績見通しと10月時点での比較