弱冠18歳でマンガ家としてデビューしながらも、それに留まらず映像作家としても高い評価を得ているタナカカツキ。彼の最新作『ALTOVISION』がvirtual drugシリーズとして発売された。3分間のオリジナル映像作品15本を収録したこの作品は、まさに「見るドラッグ」。美しくも凄まじい映像と音楽が、静かに、しかし洪水のごとく鑑賞者の脳内へと流れ込んでくる。Hi-VISION Blu-rayディスクでの鑑賞を前提に、この作品を作り上げたタナカカツキに話を訊いた。

タナカカツキ
1966年、大阪府出身。弱冠18歳でマンガ家デビュー。以後、映像作家、アーティストとしても活躍。マンガ家として『オッス! トン子ちゃん』、『バカドリル』(天久聖一との共著)など作品多数。1995年には、フルCGアニメ『カエルマン』発売。CM、PV、テレビ番組のオープニングなど、様々な映像制作を手がける

ひとりで世界を創るという映像表現の魅力

――タナカさんはマンガ家として有名ですが、どういう経緯で映像作品を作るようになったのですか?

タナカカツキ(以下、タナカ)「元々、マンガと並列してアニメーションなどの映像作品を手がけていたんです。ただ、昔はツールやプラットフォームの問題で映像の出力の現場(※見せる機会)がなかったけど、途中から現れたという事だと思います」

――映像制作の作業はおひとりで、行っているのですか?

タナカ「完全にひとりですね」

――ツールに関してですが、デジタル以前はどのような映像制作を行っていたのですか?

タナカ「最初は8ミリのフィルムで撮影してました。手書きのアニメーションも作ってました。ただ、これは特別な事ではないんです。昔は、アニメーターとかいう言葉もなくて、マンガ家はみんなアニメも描いていたんですから。だから、僕の中の意識では、マンガもアニメも分けてなかったんです」

――それから、映像のほうのお仕事の比重が増えていくわけですね。

タナカ「1993年にMacを買ったんです。そこからPCで絵を描き始めて、そうなりましたね」

――CG映像とマンガ、意識で分けていなくても差異を感じますか?

タナカ「正直、映像のほうが面白いですね。現在のマンガ産業は多くのスタッフが関わり、1本の作品を作るというシステムになっていると思うんです。でも、昔はやっぱり個人作業で、ひとりのマンガ家が世界を創るという作業だった。今は出版社とマンガ家がチームで創るという感覚だから、個人的には、面白く感じられないんです」

――ひとりで世界を創るという映像表現のほうが、タナカさんには合っているということですか?

タナカ「現在はそうですね。マンガと逆に映像の世界は、以前は団体でしか出来なかったのが、ツールの進歩で個人でも映像制作が出来るようになった。これは、僕にとっては刺激的な事でした。あと、昔は出口がなかった。高校生の自分が8ミリで映像を撮影しても、見せる機会がなかったんです。今はネットで公開することも出来る。これは大きいと思います」

――今回の『ALTOVISION』もそういう個人の映像制作の流れで生まれたのですか?

タナカ「そうですね。元々、『ALTOVISION』のような映像を個人的にPCで作っていたんです。『virtual drug』シリーズに関しては、ひとりのファンとしてシリーズ開始当初から、"これ面白い映像だなあ"と思ってました。でも、当時のツールでは、思い描いた映像を個人で作る事は出来なかった。現在はハイビジョンの作品が自宅で作れるようになった。この環境の変化は大きいですね」

――商品化のお話が来た時はどう感じましたか?

タナカ「最初は本当に個人的な作品で、友達に見せるために作っていたので、商品になるとは、思っていなかったですね。パッケージ商品でないと昔は見れませんでしたが、今はPC上でも見れるので、パッケージとして発売されることに、とにかく驚きました」

――映像はもちろんですが、アートワークから何から、とにかく異様な作品ですよね。

タナカ「こういう作品がパッケージとして世に出るのは、刺激的な事だと思います。自分みたいな人間がまだ何千人かは、この世にいると思うので(笑)、いいんじゃないですか? あと、制作のタイミングに関しては、出力の形態が変わったということが大きいですね。アナログ放送がまもなく終りデジタルになる。大型液晶テレビが家庭に来て、Blu-rayディスクが再生できる時代。ハイビジョンの時代が来ましたが、正直見るべきソフトがない。今までのソフトをBlu-rayディスクで見てもあまり意味がないように感じるんです。欲望として、このハイビジョンの環境をフルに使った、ハイビジョン専用の映像を、僕個人が見たかったんです」

――この作品を作ってみて、どんな感想を持たれましたか?

タナカ「今まで出来なかった映像表現が、今回出来たと思いましたね。それは出力の問題が大きいんです。アナログテレビでは、この作品は無理でした。今回描いたような細かい粒、細い線、速い動き。これらは、ハイビジョンテレビでないと表現することが出来ませんでした。また放送メディアでは、光の使い方などで、ダメな表現が沢山ある。今回は、出来るギリギリのスペックまでやりました。15本全ての作品で、何かしらの新しい技術的なアプローチをしました。『この作品では、細い線を描こう』とか。だから、全ての作品に新しい表現テーマがあると言えますね」

――この作品をどう楽しんで欲しいですか?

タナカ「音楽のように、映像そのものを楽しんで欲しいですね。音楽も出力環境が変わった、つまり技術が進歩した事で、テクノや音響系のようなジャンルの音楽を楽しめるようになったと思うんです。純粋に音楽の音そのものを。やっぱり技術とともに楽しみ方って変わってくると思うんですよ。プラットフォームに一番合った映像を楽しむのは、自然な事だと思います。だから、ハイビジョンのために作った『ALTOVISION』の映像そのものを楽しんで欲しいですね」

ALTOVISION