米航空宇宙局、ご存じ"NASA"のWebサイトには膨大な数のマルチメディアデータがアーカイブされている。そしてこれらの画像はパブリックドメイン、つまり基本的に転載が自由なのである。すばらしい。
「サイエンス」カテゴリをローンチしたばかりの当編集部にとって、この人類の宝とも言うべき美しいデータの数々を、有効活用させていただかない手はない…というわけで、遠慮なく日々のコンテンツに使わせてもらうことにした。題して「NASAからのおくりもの」- 第1回目は最も地球に近い天体である"月"の写真を取り上げてみたい。
下の写真は1964年7月31日、米国が初めて宇宙船からの撮影に成功した月の表面だ。撮影したのは月探査機「レインジャー7(Ranger 7)」号。"7"という数字からわかるように、1号から6号までのレインジャーが存在した。だが、打ち上げ失敗やカメラの不調などで、7号が月に到達(衝突)するまで米国はデータを得ることがかなわなかった。ご存じの通り、当時は東西冷戦の真っ最中。宇宙開発で米国はソ連に遅れを取りまくっており、月面探査の分野でもソ連のルナ計画に先を越されていた。
多額の予算投入と失敗ミッションを繰り返し、ようやくレインジャー7がこの画像を無事に送ってきたとき、関係者の心情はいかばかりだったろう。喜びよりも安堵の気持ちのほうが強かったのでは…とつい勘ぐりたくなる。
レインジャー7号はこの写真も含め、4,308枚の高解像度画像を送信してきた。最初の撮影から17分後、同機は月表面、写真の枠外左上の位置に衝突した。最後に送られてきた写真は0.5m/ピクセルという非常に高い解像度のものだった(レインジャー計画では探査機を軟着陸させるのではなく、最初から月面に衝突させることになっていた)。レインジャー計画はレインジャー9号まで続き、得られたデータはいずれもアポロ計画の着陸地点選びにおける重要な資料となる。
先週末の3連休、1年で最も寒くて空気が澄むこの時期、夜空にいつもより大きく明るく輝く満月を見た人も多いのではないだろうか。実は10日、11日に見えた月は、2009年で最も大きく明るい満月だったのである。月がその公転軌道上、最も地球に近づく点を"近地点"というが、近地点到着(10日)と満月(11日)のタイミングが非常に近かったためである。昨年末の12月12日深夜に見えた満月ほどではないが、通常の満月よりも3割増しぐらいの大きさで見えたはずだ。
身近な天体ではあるが、その時どきに撮られた月の写真には、さまざま背景が隠されている。本コーナーでも時おり、いろいろなシーンの月を紹介していきたい。