「世界中のすべての人々とビジネスの可能性を最大限に引き出すための支援をする」を企業ミッションのひとつに掲げているマイクロソフト。同社では、ITの活用機会に恵まれない人々にITスキルを学ぶ研修機会を無償で提供するという目的の下、「UPプログラム」と呼ばれる社会貢献活動を2003年から続けている。このプログラムは、100カ国以上にわたる600以上の非営利団体に対して、現在までに約300億円の助成金とソフトウェアの配布などを行っている世界規模で展開する活動。もともとは同社の日本法人がDV被害やシングルマザーなど社会的/経済的に困難な状況にある女性を支援することを目的に2002年から首都圏で開始した「ITボランティア・プログラム」が発端となり、その後世界的に発展したという経緯がある。現在では「女性のためのUPプログラム」と名称を変え、全国女性会館協議会や女性関連のNPO法人などと手を組み、全国的な運動として展開している。
こうした活動の一環の中でも、パソコン教習による単なる就労支援に留まらず、起業を目指す女性のために2007年6月に開設されたのが、横浜市の「女性起業UPルーム」だ。マイクロソフトと横浜市、財団法人横浜市男女共同参画推進協会が協働して生まれた施設で、横浜市戸塚区にある男女共同参画センター横浜(フォーラム)内の一室で、火曜から土曜(祝日、第4木曜、年末年始を除く)の10時から17時の間、起業関連図書の閲覧やパソコンによる情報検索が自由に行えるほか、専門家による相談などを行っている。
もちろん、同施設内では起業を目指す女性のためのセミナーや講習の開催も盛んだ。起業の基本から実践に必要なノウハウをテーマや目的ごとに単発で気軽に学ぶことができる「起業セミナー」のほか、起業のイロハを体系的に継続して学ぶことができる「起業家たまご塾」が実施されている。
起業家たまご塾には、「事業プラン完成コース」と「IT活用販促コース」が設けられており、週1回の講義がそれぞれ計5回、7回にわたって行われる。事業プラン完成コースでは、資金調達から損益計画、マーケティング、セールスプロセスなどなど起業のための一般の基礎知識を主に学習し、IT活用販促コースでは、広報戦略としてのIT活用方法を身に付けるといった実践的なコースの2本立てになっている。どちらもすでに事業プランを持っている女性を対象とした有料のコースで、受講者には書類による選考も課される。2007年度の開始以後、現在の受講者は2期生で、ネットを活用した物販を中心に、スクールの開講など、1期生の全員が既に起業を実現した実績を上げている。
こうした活動において、マイクロソフトが特に力を入れてバックアップするのはやはり自社製品の活用だ。そのひとつとして行われているのが、マイクロソフトの「Office Live Small Business」を使ってホームページを作成するセミナーだ。Office Live Small Businessとは、マイクロソフトが今年3月に日本語版の正式運用を始めた小規模事業所向けのWebベースのビジネスサポートツール。しかし、テキストが市販されていないせいか、無料で提供されている割に利用者が少ないのが現状だ。そこで、これを受講者に活用してもらおうと、マイクロソフトでは今回のセミナーにあたって独自のテキストを作成し、セミナー講師向けに製品担当者が研修を実施するなど全面的なバックアップにあたったという。
女性起業UPルームのアドバイザーで、セミナーの講師も担当する、よし枝ゆき子氏によると、「起業には情報発信が必要。そのためにはITの活用が必須だが、ビジネスに至らない段階でホームページの作成を外注することはできない。Office Liveなら、ブログ感覚で他のソフトを使うよりも気軽に自分で作ることができる」と、採用に至った経緯を説明する。一方、マイクロソフト側は「受講者の方に実際に使ってもらい、そのフィードバックを製品開発に活かせる」(マイクロソフト法務・政策企画統括本部 政策企画課本部 社会貢献部 社会貢献コーディネーター 田仲愛氏)とそのメリットを語った。
ビジネスには人脈づくりも極めて重要な要素となる。女性起業UPルームでは、情報の提供や教育の場としての機能以上に、人脈づくりのための交流の場であることも重要だと見なされている。「この施設は、女性が安心して来ることができる場所として機能すればいい。コミュニティづくりをしていきたい」と、横浜市男女共同参画推進協会 事業企画課の小園弥生氏。また、アドバイザーのよし枝氏も「まだまだビジネスの中心は男性。そんな中でいきなりビジネスを始めようとするのは女性にとって厳しい。女性ばかりという安心できる環境の中でスタートし、ビジネススキルを身に付けていくことも重要」と、その意義を強調する。
マイクロソフトなど3組織によるこのプログラムは、2008年12月でいたん終了したが、マイクロソフトは以降もこうした女性支援活動を存続していく意向だ。今後は特に地方在住者に力を入れて支援活動を行っていく方針で、「ITが地域の活性化のチャンスにつながれば。横浜で成功した経験を踏まえ、"ITのデバイドをなくす"という企業ミッションを果たしていきたい」(田仲氏)としている。