「QuarkXPress 8」の発売から約半年近くが経過した。これまでの、反省点や問題点を改善し、進化したQuarkXPress 8は、どのようにエディトリアルデザインの現場には受け入れられているのだろうか? QuarkXPressを活用しレイアウト作業を日々行う現場の声を聞いた。

デザイナーのQuarkXPress 8の評価は?

 

通販生活などで有名なカタログハウス

今回、お邪魔したのは東京都・渋谷区にある出版社カタログハウス。同社制作室に勤務する竹井賢氏にお話を伺った。竹井氏はカタログハウスから年に3回刊行される雑誌「通販生活」(発行部数130万部)のチーフ・デザイナーとして、多くのページのレイアウト作業を担当している。竹井氏は通販生活と自身の仕事に関して「『雑誌とデザイナー』というよりは『ひとつのお店と売り子』です」と語る。「通信販売ですから、商品を写真とコピーだけで売らなくてはいけません。読者は現物を手に取れないわけですから、そのぶん丁寧なクリエイティブが必要だと考えています」。こう竹井氏が語る、「丁寧」でなおかつ「見せる」誌面作りのため、QuarkXPressはどう利用されているのだろうか?

今回、お話を訊かせてくれた、カタログハウス制作室チーフ・デザイナーの竹井氏

通販生活のカタログショッピングのページレイアウトは、全て社内のデザイナーが担当している。テキスト部分もすべて社内のコピーライターが担当。通販生活について竹井氏は「カタログ本というよりは、商品をしっかりと売るために、写真だけでなく、文章で商品の良さを伝えていく雑誌的な要素が強いです。カタログ本と雑誌の中間と考えていただけると、ありがたいです」と語った。ちなみに通販生活は毎号300ページ近くのページ数で、かなりのボリュームがある。総勢4名のデザイナーで、通販生活の大部分のエ ディトリアルデザインを手がけている。竹井氏はQuarkXPress導入当時を「弊社はDTPへの移行がわりと他社に比べて遅かったんです。Macでレイアウトを組んで、出力見本に指定を加えて印刷会社にお願いしたりしていました。さすがに、必要に駆られて、版下の延長線上という感じで、QuarkXPressでの作業に移行しました」と振り返った。

現在、カタログハウスの制作室では、「QuarkXPress6.5」を使用しているという。このいきさつについて竹井氏は「3.3から4.1と来て、今年の7月にMac OS9の環境からOS10の環境に移行したんです。Quark8が出る少し前の時期で、「Indesign」を使うという選択肢もあったのですが、弊社では継続して販売している商品が多いので、かつて使っていたドキュメントを、ベースにする場合もあるのです。したがってQuarkをまだ使えるというのであれば使いたいということで、OS10に移行したタイミングで6.5になりました」と語った。

現場から見たQuarkXPress 8の魅力と問題点とは

移行により問題点やストレスはないのだろうか? 現状について竹井氏は「4.1から6.5に移行して作業上のストレスはないのですが、OS10との相性が良くない部分もありますね。例えば、『これをやると必ずフリーズする』というケースが多々あるので、騙し騙し使用しているという部分もあります。まったく使えないというなら8への移行も有り得るのですが、デモを見た限り6.5と8は別のアプリケーションという感じなので、なかなか移行のタイミングがないというのが実情ですね」と制作現場のエピソードを交えつつ説明した。

竹井氏によると、カタログハウスの制作室ではすでにQuarkXPress 8のライセンスを所得しているという。ただ、現場への導入予定はまだ未定とのこと。この理由について竹井氏は「時間的な余裕がない」という事を最大の理由として挙げた。日々、激務が続くデザインの現場では、なかなか新しいアプリケーションについて学ぶ時間がとれない。バージョン違いといえど、竹井氏の印象として「まったく違うアプリケーション」のように感じられるQuarkXPress 8への移行を躊躇するのは、仕方ない事なのかもしれない。

ただ、竹井氏はQuarkXPress 8へ大きな期待も寄せている。竹井氏は「いつかは移行しようと思っています。字詰めの機能とか、ぶら下がりの文字の処理とか便利になっているので、現場にはありがたいですし、あと、『Photshop』のデータをレイヤーのまま配置できるのも便利だと思います。組版に特化しているのでなく、他のアプリケーアションとの互換性が強くなっている部分はとても魅力的ですね。価格も安くなったと思いますし。もう少し早く日本版が出てくれれば、よかったんですけどね」とQuarkXPress 8への正直な印象を語った。

QuarkXPress 8の大きな改良・進化は、多くのQuarkユーザーたちから、好意的に受け入れられた。ただ、実際のエディトリアルデザインの現場では、逆にその大きな改良・進化ゆえにQuarkXPress 8への移行を躊躇しているとう現状もあるようだ。今後も、エディトリアルデザインの現場で働く人々の生の声から、QuarkXPress 8を取り巻く状況を伝えていきたい。

次回は「QuarkXPress 8」を使用しているデザインの現場を紹介予定

撮影:岩松喜平