「Acrobat」や「Livecycle Enterprise Suite」などの製品で、企業情報システムの分野においても認知度を高めているアドビ システムズ。特に近年では、国内企業の間でも、FlashやAIRといった同社のRIA環境の適用事例が報告されるようになり、社内データの有効活用や事業環境の可視化のためのソリューションを提供する企業として期待を集めるようになっている。
アドビシステムズ 代表取締役社長 クレイグ・ティーゲル氏 |
アドビ システムズの新社長に就任したクレイグ・ティーゲル氏と、米アドビでクリエイティブソリューション シニアバイスプレジデントを務めるジョン・ロイアコノ氏に、今後の事業戦略や企業向けソリューションの展望について話を聞いた。
ティーゲル氏は、米アドビで、英国・北米地域のセールス、マーケティング、チャネル流通、カスタマーサポートなどの事業統括責任者を経て、今年9月にアドビ システムズの代表取締役として着任、12月18日に代表取締役社長に就任した。2000年にアドビに入社する以前は、サン・マイクロシステムズでオーストラリア / ニュージーランド地域担当マーケティング ディレクターを歴任した。
一方、ロイアコノ氏は、米アドビで現在、「Creative Suie」「Flash」「Dreamweaver」といったクリエイティブ向け製品の開発、マーケティングの戦略策定を指揮する。アドビ以前は、サン・マイクロシステムズで「Solaris」「Java」の開発、オペレーティングプラットフォーム部門のゼネラルマネジャー兼CMOなどを担当した。
「顧客とのエンゲージメント」を推進
アドビシステムズ クリエイティブソリューション シニアバイスプレジデント ジョン・ロイアコノ氏 |
「アドビの成功要因の1つは、我々のテクノロジーに対して、顧客がロイヤリティを持ち利用していただけたこと。今後も、よいアプリケーションを提供し、幅広く使っていただけるようにすることが基本だ」
ティーゲル氏は、今後の事業戦略の基本方針として、「顧客中心」のビジネスを継続することをそう強調する。そして、そのための施策として、各種パートナーとの連携強化を挙げる。
具体的には、「クリエイティブ向けのCreative SuiteやAcrobatについては主要リセラーやディストリビュータの販促を支援すること、企業向けのLiveCycleではソリューション・パートナーとの連携を強化すること、FlexやAIRについては、開発パートナーやSirと協力して、RIAソリューションの提案を続けること」などである。
同社では、こうした顧客やパートナーとの関係強化や連携のことを「エンゲージメント」と呼んでおり、クリエイティブ向け製品やエンタープライズ向け製品にかかわらず推進する方針をとっている。その意味でも、「顧客というのは、クリエイティブに限るのではなく、企業の企画部門、マーケティング部門、利用部門などをすべて含んでいるもの」であり、企業向けソリューションの提供にあたっても、顧客中心のビジネスを強化することを強調する。
伸長するエンタープライズ向け製品
アドビ システムズの2008年度の売上高は35億8000万ドル。売上げ構成比は、FlashやCreative Suiteを中心としたクリエイティブソリューションが約58%、AcrobatやLivecycle ESを中心としたビジネス・プロダクティビティが約30%、モバイル&デバイスが約3%、その他が約9%である。
このうち、Livecycleについては、前年比32%増と急伸しているほか、Flashについては、モバイルを含めネットワークにつながった機器の98%に採用されるなど、クリエイティブ向け製品を提供する企業から、エンタープライズ・システムやモバイル・システムを手がけるソリューション企業へと移行しつつある。
実際、同社のビジネスでは、クリエイティブ向け製品の利用がきっかけとなって企業内での利用に発展したり、逆に、社内利用や新ビジネスのためにクリエイティブ向け製品を利用したりといったかたちで製品の採用が進むケースが少なくない。
ロイアコノ氏は、「FlashやPDFを無償のプラットフォームとして提供し、それを使うためのツールを有償で提供することでビジネスを拡大させるモデルが当社の特徴だ」と話す。また、ティーゲル氏も、「FlashやPDFをきっかけとして、Creative SuiteやLivecycleに入っていく例は多い。国内においても、この2年で、エンタープライズ向け製品の認知度が急速に高まっている状況だ」と現状を語る。