日立製作所と独SAPは、「SAP グローバル サービスパートナー」のパートナー契約を締結したと発表した。両社は、SAPソリューションの販売から、システム構築、マーケティングなど、広い範囲にわたる協業を世界的規模で推進、日立のプラットフォームやミドルウェア、コンサルティングサービスとSAPソリューションとを組み合わせ、日本、米国、欧州をはじめ、世界市場に向け、SAPビジネス・アプリケーションを提供していく意向だ。
日立は、今回の提携により、日立SAPグローバルセンタを設立し、世界的な事業展開を統括する。同社グループの擁する海外拠点を活かし、日系企業が欧米など海外展開する場合には、欧州(英国、ドイツ、スペインなど)のHitachi Consulting Europe Limitedや米国のHitachi Consulting Corporationを軸に、各国のパートナーとも手を携え、SAPのビジネス・アプリケーションやテクノロジー、サービスを拡大、導入支援を行う。日系企業だけでなく、現地企業に対しても積極的に展開していく方針だ。また、中国では上海に日立信息系統があり、同国でのSAP関連事業拡大も視野にある。
SAP要員を2,080人に増員
業種別戦略としては、化学、ハイテク産業、医薬などの日米両市場でソリューション展開している分野をいっそう強化するとともに、電力、交通、プラントなど、日立が得意とする社会インフラ関連の業務領域にもSAP製品を展開していく考えだ。
技術面では、長年の大型汎用機事業で蓄積してきた独自技術と、SAPソリューションの融合を図り、「SAP COIL(Co-Innovation Lab)」を活用し、日立のプラットフォームやミドルウェアなどの最先端技術とSAPソリューション連携の共同検証や新規ソリューションの開発を行う。また、グローバルユーザー向けのテンプレートを開発する。さらに、ワールドワイドにSAP要員を育成し、現在1,600人いるSAP最新認定資格取得者を国内、海外合わせて2011年までに2,080人に増員、そのうち、SAP NetWeaverなどSAP最新技術のエンジニアを200人とする予定だ。
これらの施策により、日立は2011年には、SAP関連事業の海外での売上げを現行の3倍程度に拡大、海外と国内の比率を1対3にすることを想定しており、2008年には380億円である同事業売上げ規模を、2011年には600億円にまで伸長させることを目指す。
日立の執行役常務 情報・通信グループ 副グループ長 兼 システムソリューション部門CEO中島純三氏は「日立とSAPは1994年から日本国内でのパートナーシップを締結しており、これまでに、200件以上のシステム導入実績があるが、今後、海外へ積極的に進出していきたい。国内外のノウハウを融合させたベストプラクティスを確立し、社会インフラ関連事業で培った総合力を活かし、SAPソリューションを世界市場に展開していく」と述べた。
独SAPのシニアバイスプレジデント グローバルサービスパートナー グローバルエコシステム&パートナーのマンフレッド・ハイル氏は「顧客企業は、アプリケーションやサービスの稼動だけでなく、ハードも求めてくることがあり、今回のパートナーシップは、これらすべてを一括で提供できることに大きな意味がある。当社は顧客が中心であるべきと考えており、ニーズをよく理解してソリューションを提供していきたい」と話した。
SAPジャパンのギャレット・イルグ社長兼CEOは「パートナーシップを組むには多くの準備が必要だが、両者は日本で15年かけて準備してきた。また、一旦、提携すれば、その維持、発展のための活動も必要だが、我々は幹部から現場にいたるまで、そのための努力をしていきたい」と語り、両者の紐帯の固さを強調した。
企業活動の国際化も影響
今回の提携の背景には、まず、企業の事業活動の国際化が進展していることがある。顧客となる企業がパートナーを選定する際には、海外で対応できるかどうかが、基準として比重を増している。日立は、欧米、中国、さらに、インドやタイ、シンガポール、マレーシアなどアジア圏にも拠点があり、海外でもSAP製品への一貫した対応ができれば、日本企業の海外展開に歩調あわせ、SAP事業も世界市場へと拡大することができる。
日立の産業・流通システム事業部 副事業部長の奥出聡氏は「国内でのSAPビジネスは、システムの計画段階など上流工程から、構築、運用、維持、保守までを手がけており、さらにハード、ミドルウェアも提供できる」と指摘「日本を中心に蓄積してきたノウハウをグローバルに展開」することに意欲を示している。
SAPとしては、日立の協力により世界各地域での事業拡大を加速させることが大きな利点だが、それだけではないようだ。SAPのハイル氏は「日立はサービスだけでなく、深い専門知識と技術力があり、ハードにも強い。近年、グリーンIT、クラウドコンピューティングなど、新たな潮流が出てきており、今回のパートナーシップは、将来にわたる戦略提携になる」としており、IT産業の近未来の方向性を見込んだ意味も、この提携関係にこめていることを示唆した。