SAPジャパンは、連結会計ソリューションについての戦略を示した。決算の早期化や国際会計基準法対応が求められている国内企業の課題に対応することを図り、「Business Objects Financial Consolidation」を軸に、戦略管理、予算管理、収益性管理製品を一括したスイート製品を2010年までに投入、EPM(Enterprise Performance Management)、GRC(Governance,Risk and Compliance:企業内統治、危機管理、法令順守)、ERPの統合、連携を進め、経営課題に全方位的に対処できる体系を確立することを目指す。
会計基準の国際的共通化を期して、IFRS(International Financial Reporting Standards:国際財務報告基準)の採用に向けた潮流が力を増している。2008年11月半ばにはSEC(米国証券取引委員会)は、米国企業に対するIFRS適用のロードマップ(最終案)を公表した。国内でも9月には金融庁が、2011年度以降のIFRS導入を念頭に、検討を開始した。IFRSは欧州連合(EU)やオーストラリアなど100カ国以上で導入されている。
SAPジャパン バイスプレジデント GRC/EPM事業開発本部長 桐井健之氏 |
米国も動き出しているいま、IFRSが欧米での国際標準の座につくということになると、日本が独自の会計基準にだけこだわっていては、国際的に孤立してしまう危険性があるといわれる。同社バイスプレジデント GRC/EPM事業開発本部長の桐井健之氏は「日本の金融当局が動かなかったとしても、企業は国際標準に対応していかなければ、経営面で不利になってしまうのではないか」と話す。
国際会計基準への対応に向け、国内の企業は複数の基準への対応と、それら相互の差異を調整し、単体の決算では国内基準を用い、連結決算では、IFRSで記述するといった作業が求められる。同社がここで前面に据えようとしている「Business Objects Financial Consolidation」は、同社が経営統合したBusiness Objectsの旧Cartesis連結会計製品を基盤としている。
同社によれば、「Business Objects Financial Consolidation」は、国内基準、IFRSなど各基準ごとのテンプレートが用意されているとともに、1アプリケーション内で、複数の会計基準を処理することが可能だ。また、事業別、地域別、製品別といった、セグメント対応ができるほか、四半期連結、月次実績などの切り口で、処理することもでき、国境を越えて進行する事業活動を財務面で補足していくための機能を備えている。
同社の顧客である日産自動車では、出資を受けている仏ルノーがIFRSを採用しているため、日常の取引レベルからIFRSに準拠した会計処理を実施、本社や主要子会社ではSAPのシステムでIFRSとローカル基準双方に対応、国内の販売会社はシェアドサービスセンターでIFRS仕訳を一括処理しているほか、中小規模の会社は既存システムの更新により、限定的なIFRS仕訳に対応するなどの措置をとっており、すでに複数基準を使いこなしているという。
日本ビジネスオブジェクツ 常務取締役 EPM事業部長 中西正氏 |
日本での国際会計基準への対応の見通しとしては、まず、国際基準と国内基準の差異を小さくするコンバージェンス(収斂)が依然続くという。日本ビジネスオブジェクツ 常務取締役 EPM事業部長の中西正氏は「コンバージェンスはの取り組みは2010年までは予想できるが、中長期的な方向性はまだ決まっていない」と指摘、収益認識、連結の範囲、無形資産の扱いなど、影響が大きな項目については、2010年以降の対応になるという。
同社では、連結管理の「Business Objects Financial Consolidation」、戦略管理、予算管理、収益性管理の4製品をスイート化し、メタデータ、マスタデータ、プロセスの協調を可能にし、共通のユーザーインタフェースにより、事業活動から抽出されるさまざまなデータを経営の武器として最大限に活用できるようにすることを目指す。現在の時点では、Business Objects BIとSAP NetWeaverとの最初の統合という段階で、2009年には両者の連携が実現し、2010年にスイートとしての形態を完成させるとのロードマップを描いている。これら4製品は、EPMを担う構成要素であり「EPMとGRCは車の両輪」(桐井氏)と位置づけ、ERPとの連携もさらに円滑化し、企業の課題に対し、切れ目なくソリューションを提供していくことを図る。
今後、国際会計基準への準拠、日本版SOX法(金融商品取引法)の施行による、企業グループ間のデータ統合の確立といった企業経営を取り巻く環境の変化は、連結会計製品の重要性を高くしており、市場としての成長性に同社は期待している。連結会計の領域では、すでにパートナー向けトレーニング、パートナーとの共同セミナーなどを実施しており、この分野での先行に向け、積極的に取り組み始めている。同社は、このような「日本企業にとって大きな経営課題に対しSAPは、全体の流れを通した統合的な提案ができる。SAPにとって勝機だが、会計のソリューションを提供している企業の使命でもある」(桐井氏)としている。